『朝日新聞』2009年11月29日付

国立大運営費交付金・奨学金、予算減を回避


行政刷新会議の事業仕分けでは「廃止」「予算削減」という判断が続いたが、第2弾で25日に議論された国立大学の運営費交付金、義務教育費国庫負担金といった項目については理解を示す発言が相次ぎ、予算を減らすという判断は回避された。民主党はマニフェストで教員の人数や教育予算の拡充をうたっており、こうした教育行政の根幹の部分については守っていこうという姿勢が見てとれる。

■念頭にマニフェスト

義務教育費国庫負担金の制度は、公立小中学校の教職員の給与の3分の1を国が負担するというものだ。文科省は、教職員を来年度5500人増やすとして約1兆6千億円を要求している。

「民主党マニフェストは『教員を増やす』となっている。総理指示も出ている」。この問題の事業仕分けの冒頭、枝野幸男衆院議員が議論の前提を設定した。予算削減が主な目的である事業仕分けでは異例の発言だ。民間仕分け人で、元東京都杉並区立和田中学校長の藤原和博氏は現場の窮状を語った。「文科省、県教委、市町村教委の3層が現場に文書を流してくる。それを減らさないと事務負担が減らず、先生は忙しいままだ」

国の負担割合はもともと2分の1だった。それが06年度に小泉政権が三位一体改革の一環として3分の1に引き下げた経緯がある。教育関係者には今も批判が根強く、枝野氏はこう促した。「国の100%負担にしたらどうか」。事業仕分けでは、これも異例の「予算増提案」だ。厳しい口調で切り込むことが多い参院議員の蓮舫氏も、珍しく静かに議論を見守った。

そんな中で出た結論は「見直し」。ただし、その対象はあくまで「教員の調査・報告義務の削減、国と地方のあり方の抜本的整理」。予算削減には触れなかった。

■「あり方」議論に

教育研究の基盤として、学生数などに応じて配分されるのが国立大学の運営費交付金だ。法人化後は資金獲得の競争が強まっており、地方大学や小規模大学には、比較的安定して支給されるこの交付金をよりどころにするところが多い。

しかし、それも政府の「骨太の方針」に基づいて毎年約1%ずつ削減されてきた。この5年間で720億円減り、小さな大学なら20校余りの配分額に相当するという。

枝野氏が「お金にならない研究がどんどん駄目になる。どう考えるのか」と尋ねると、文科省幹部は「もう限界」。一方の財務省側が「競争的環境の中で優秀な研究者が資金を得る部分については伸ばしている」と述べると、枝野氏は「科学技術ほどの大きなお金を芸術、文学、哲学に出しているの?」。文科省に対しても「守りの姿勢だけで問題を解決できると思っているんですか」と語気を強めた。

論点は、法人化の是非にも及ぶ。「学長の裁量度が高まった」と評価する声の一方で、「民間人を登用してさらに効率化を」「大学教育がどうあるべきかもっと検証すべきだ」といった意見も出た。

仕分けの結論は「大学教育・研究の重要性は異論はない」とした上で「法人化の是非も含めてあり方を見直す」というもの。ここでも、予算削減は言及されなかった。

3カ月以上の延滞債権が08年度末で2386億円に上って問題になっている日本学生支援機構の奨学金事業についても、回収の甘さや機構への官僚の出向、天下りを見直すという結論になったが、やはり「削減」という意見は出なかった。それにとどまらず、学生の厳しい状況を踏まえて返済不要型の奨学金を検討すべきだとの声も出た。(見市紀世子、上野創、青池学)