『読売新聞』2009年11月29日付

「原子力」キャンパスに復活


「原子力」「原子核」などと冠した学科・専攻を復活させたり、新設したりする大学が増えてきた。原子力発電を再評価する風潮の高まりが背景にある。(長谷川聖治)

文部科学省によると、1984年の時点で「原子」と名のつく学科、専攻は、10大学の学部、9大学の大学院にあった。チェルノブイリ原発事故(86年)、高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏れ事故(95年)、JCO臨界事故(99年)など原子力施設の事故の影響で、人気は凋落(ちょうらく)。国立大学の法人化に伴う学科統合が重なり、廃止、改組が相次いだ。2002年度には、ついに、原子とつく学部学科を持つ大学がゼロになった(大学院は2大学に残った)。

だが、風向きは大きく変わってきた。石油の高騰によりエネルギーの安定供給に懸念が生じ、温室効果ガスを出さない原子力発電が脚光を浴びるようになった。グリーンピースなど反原発を標榜(ひょうぼう)していた環境保護団体からも、原子力の役割を認める意見が出始めた。

世界中で原発の新増設が計画され、その多くに、東芝、三菱重工、日立のいずれかがかかわっているが、大学で原子力を学べなくなったため、原子力分野の技術者は不足している。

まず動いたのは、原発を多数抱える福井県の大学だ。福井大が04年、大学院に原子力・エネルギー安全工学専攻を、福井工業大は05年、工学部に原子力技術応用工学科を新設。東京大も同じ年、大学院に原子力国際専攻コースなどを置いた。

1956年に日本で初めて原子力工学専攻を設け、原子力教育の先駆けとなった東海大工学部は、来年4月、01年以降停止していた原子力の専攻を復活させる。エネルギー工学科を原子力工学科(定員40人)に改称し、原子力の高度技術者(マイスター)の育成を目指す。東海大の大江俊昭教授は「次代の原子力産業を担う人材を」と意気込む。

昨年、工学部に原子力安全工学科を設置した東京都市大(旧武蔵工大)は、来年4月に早稲田大と共同で大学院の原子力専攻を新設する。早大の鷲尾方一教授は「原子炉管理に強い都市大と、理工学系の基盤研究に実績がある早大が組むことで、原子力だけでなく、機械、物理、材料などにもたけた人材を育てたい」と語る。原子力関連学科・専攻の新設を模索している大学はほかにもある。

文科省など国も、2年前から、大学、高専の学生に原子力関連施設で実習などを積ませる「原子力人材育成プログラム」を実施しているが、来年度はこのプログラムを拡充し、国際的に活躍する人材の育成を目指す計画という。