『京都新聞』2009年12月1日付

京都大から、知のメッセージ
前総長の尾池さん、式辞まとめ出版


前京都大総長の尾池和夫さん(69)の総長時代の式辞などをまとめた「変動帯の文化−国立大学法人化の前後に」が出版された。組織のリーダーとして、地震学者として、さまざまなエピソードから「現場へ自分で行き、現象を自分で見る」ことの大切さを語りかけている。

尾池さんは、2003年12月から08年9月まで京大総長を務めた。著作には、国立大法人化(04年4月)など激動期の入学式や卒業式、シンポジウムなどでの36の式辞とあいさつを掲載した。

■高等教育へ国費充実を−

07年3月の卒業式では、法人化による授業料の値上げの問題を指摘、値上げ反対の立場から「少子化にいちばん深く関係しているのが、授業料を含む教育費の負担。先進国で日本は目立って高等教育への国費の支出が少なく、国費の負担をもっともっと充実しなければならない」と訴え、「日本を人の体に例えると、大学は『脳』。脳への栄養補給を減らせば、20年後には日本の知能はだめになる」と、「事業仕分け」への学術界からの批判につながる持論を展開している。

■現場での事実確認大切−

宇宙や自然災害、チンパンジーなど京大の研究も紹介し、「研究者にとって、現場を踏んで事実を観察し、そこから得た成果を人類のために生かすことが基本」と語る。自身が開発に携わったビール「ホワイトナイル」の話題など、多才な活躍ぶりも伝わる。

尾池さんは「この本は『京大』からのメッセージ。研究者、総長として、知の蓄積の一部を伝えた。本を通じて多くの人に『京大』を知ってもらいたい」と話している。京都大学学術出版会刊。税込み2310円。