http://www8.cao.go.jp/cstp/output/20091119yushikisha.pdf

科学技術関係予算の確実な確保について(緊急提言)

平成21年11月19日
総合科学技術会議有識者議員
相澤益男
本庶 佑
奥村直樹
白石 隆
榊原定征
青木玲子
今榮東洋子
金澤一郎

今、我々は、21世紀の世界の中で、我々が日本という国をどういう国に作っていくか、という国のかたちそのものに関わる大問題に直面している。ここにおいて、科学技術は決定的な意義を持っている。

科学技術は、我が国の経済成長や国民の健康で豊かな暮らしを支える基盤をなすばかりでなく、人類に新しい知見をもたらすものである。しかし、その成果が実社会で活用されるまでには長期間の継続した取組を要する。したがって、国としては、まさに国家百年の計の下、長期的な視点に立って、継続的かつ安定的に科学技術政策を実施していくことが極めて重要である。

昨今、科学技術関係施策に対しても、ややもすると直ちに成果を求めるという短期的な視点にのみに立った評価がなされ、その成果の長期的な視点での効果を考慮しない議論がなされている嫌いがある。

総合科学技術会議有識者議員としては、昨今の厳しい財政事情を理解しつつも、前述のような議論は、我が国の科学技術の健全な発展を損ない、ひいては国家の土台を揺るがしかねないものと大いに危惧することから、以下の提言を行うものである。

1. 現状認識

平成22年度科学技術関係予算の概算要求額は3兆6,635億円で、対前年度比3.5%増となった。これは、この数年、概算要求段階で対前年比プラス20%程度の要求であったことと比較するとたいへん低い水準に留まっている。とりわけ、科学技術関係予算の骨幹をなす科学技術振興費については、1兆3,667億円、対前年度比マイナス0.8%となっている。対前年度マイナス要求となることは、総合科学技術会議の発足以来初めてのことであり、極めて異例の事態である。

加えて、今般の行政刷新会議の事業仕分けにおいて、科学技術関係施策も対象になっているが、その議論において、短期的な費用対効果のみを求める議論がなされるなど、国として長期的視点から推進すべき科学技術に対しては必ずしも馴染まない部分があると懸念している。

科学技術関係予算については、従前より科学技術政策担当大臣・総合科学技術会議有識者議員が、主要な新規施策にかかる優先度判定、継続施策にかかる詳細な見解付け、改善見直し指摘(以下優先度判定等)を実施しているところであり、平成22年度概算要求に対しても、新内閣の政権運営の基本方針を踏まえ、新たに決定した「科学技術に関する予算等の資源配分の方針」に沿って、グリーンイノベーションの推進等に資源の重点化を図るとともに、メリハリのきいた科学技術予算編成に資するべく優先度判定等を実施している。

2. 提言

海外主要国は、熾烈な国際競争を勝ち抜くために科学技術関係予算を増額している。また、研究費総額に占める我が国の政府負担の割合は、海外主要国のうちで最低である。このような中で、我が国が科学技術予算を減額するようなことになれば、科学技術に対する国家の姿勢を問われることになり、鳩山総理が所信表明で示された「科学技術で世界をリードする」という方針を十分に実現することができないと言わざるを得ない。また、温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減するとの目標の達成のためには科学技術の果たす役割は極めて大きなものがあるが、そのためには25%という積極的な削減目標に匹敵するような大胆な科学技術への投資が必要である。

科学技術の分野では、携わる人材に負うところが大きい。そのため、予算の減額となり計画が縮小して人材が散逸した場合には、仮に後年に予算額が復活したとしても、水準を元に戻すことは非常に難しい。

科学技術関係予算の編成に当たっては、科学技術の専門家の意見に十分配慮しながら進めることが必要である。短期的な視点で評価するのではなく、国家百年の計を図るとの認識を持って、科学技術関係の予算の拡充を強く求めるものである。