『読売新聞』2009年11月24日付

特集 私の教育直言
家計救う給付型奨学金
小林雅之 東京大学教授(教育社会学)

 学力低下、深刻化する進学格差――。山積する課題をどう解決したらいいのか。教育のあるべき姿について、識者や関係者から話を聞いた。

小林雅之(こばやし・まさゆき) 1953年生まれ。放送大学助教授などを経て東京大学・大学総合教育研究センター教授。専攻は教育社会学。近著に「進学格差―深刻化する教育費負担」(ちくま新書)

機会均等は教育の最も重要な理念だが……

奨学金問題を20年以上研究していますが、この1年くらい、急に大きな問題になってきて、色々な機会に取り上げてもらえるようになってきました。機会の均等は、教育で一番重要な理念です。スタートラインが違ったところで競争しろと言われても非常に難しい。せめて社会に出るスタートラインは同じにする。そのためには、教育は平等に受けられることが非常に重要になってくる。今日のような社会では最低限の条件かもしれません。同時に、有為な人材になろうとした人が、教育を受けられないことで能力を発揮できないという問題があります。人材が有効に活用できなければ社会的損失です。だからこそ、機会均等は、教育を考える場合に一番重要な理念の一つなのですが、日本の高等教育では具体的な政策はあまりないのです。

一つは地域間格差の是正です。47都道府県の大学短大進学率を見ると、一番高い東京は7割を超え、低い沖縄、鹿児島あたりと4割近い差があります。大学は東京と関西に固まっていて、文部省は、できるだけ地方の人も自宅から通学できるように大学をつくっていくという考え方で、是正政策をとってきました。1975年からは大学を大都市でつくらせないという政策で地方を振興しようとしました。この結果、格差は少し縮まった。ところが、1990年から18歳人口が急増しました。第2次ベビーブームの人たちです。現実に大学に入れないという問題が起きてきますので、今度は大学を拡張します。その中でまた格差が広がってしまっているわけです。

そして、もう一つが奨学金中心の政策です。しかし、高等教育の中でずっと大事だと言われながら、それほど重視されてこなかったのが日本の現実の姿だと思います。

学生生活調査の信用度

所得階層間格差については、これまで全国規模の調査がありませんでした。文部科学省が長く続けてきた学生生活調査(2004年から独立行政法人日本学生支援機構が実施)と社会学者のSSM(社会移動)研究グループの調査で、お互いに証拠を示しながら対立する結果が出ている。前者は、格差が非常に縮小している、後者は、格差は拡大するか、少なくとも縮小はしていないという結論です。また、SSMのグループは、経済力の差が学力の差を生み出して、それが進学格差につながっているということも明らかにしました。

もし全く所得にかかわりなく平等に大学に入っているなら、所得層を五つに分けると、すべて20%ずつになるはずですが、学生生活調査では、国立大学はつい最近までは20%より上、つまり、所得の低い人のほうが多いという結果になっていました。しかし、個々の大学で事情が違う。よく言われるのは東大に高所得層が多いことです。5割以上の人が年収1000万円以上です。しかし,所得の低い人も多い。450万円以下の層は1割余りいます。

全体としては東京の国立大学は非常に所得の高い人が多い。東京の所得水準が高く、ある程度の所得水準でないと生活費を負担できないから、地方から進学しにくい。それと学力の問題が重なっています。ところが、地方では、かなり所得の低い層が国立大学に行っており、国立大学全体では所得階層の低い人たちが結構行っていることになる。ただ、これが疑問視されてきています。

私立大学はもっとドラスティックです。1000万円を超える最も高い所得層が非常な勢いで減っている。1968年からのデータで見ると、社会全体ではその高所得層の2割の人たちが45%を占めるに至ったのに、現在では20%を切っている。本当にこんな変化が起きているのかという批判があります。

奨学金の基礎調査として各大学の学生部が実施するのですが、奨学金を受けている学生を多く対象にしてしまっていないかという指摘がある。実際、調査では日本学生支援機構の奨学金を受けている人が従来から3割以上います。しかし,現実の学生数で割ると、現在で3割ですが、かつては2割ほどだった。

一方で、SSMの調査は、サンプル数が非常に小さい、全国調査ではないという問題があって、本当に全国の実態を正確に把握しているものはなかったのです。

私立大で顕著な所得階層と進学率の関係

そこで、東大の大学経営・政策センターが2005年に初めて行った全国規模の調査が注目されました。高等教育のグランドデザイン策定のための基礎的調査研究が目的ですが、その中で、私がかかわった全国の高校生4000人とその保護者に対する調査を行いました。進路希望がどう形成され、どう決定されるかを追いかけました。進学や就職をして、もう1回進学したいと思っているか、逆にやめたいと思っているかを1年後、2年後、3年後という形で追跡しています。保護者には最初の1回だけです。現実的に進学について考える時期に、進学するなら教育費をどう負担するのか、奨学金はどう考えているのかを聞いたわけです。対象は公立高校か私立高校の全日制で、保護者と同居している人に限っています。1地点10サンプル、400か所でとりました。

その結果、国公立大学は大体、所得階層とあまり関係がない。低所得層の人も行っています。ある程度、学生生活調査の結果が正しいことを裏づけました。問題は私立大学です。400万円以下の所得の人が二十数%。1000万円以上の人が45%ぐらいいて、かなり高くなっています。最も高い所得層が私立大学には多くないのですが、それは国公立大学に行っている人と浪人が結構いることによります。進学率全体で見ると、やはり所得階層と非常に相関が強く、特に私立大学で顕著だということです。これに地域差などをかけると、もっと大きな差が出てきます。

「無理する家計」はもつのか

中学3年生のときの成績と所得階層を重ねて見た場合、所得が高いほど進学率が高い傾向は見てとれます。注目すべきなのは、成績が高いと、所得に関係なく進学していることです。400万円以下の層でも7割が進学しています。ある意味では驚くべきことです。私はこれを「無理する家計」と呼んでいます。400万円以下の人が本当に子供を大学にやって家計的に大丈夫なのか。

教育費負担の問題は、日本の場合、本人より保護者のほうが重要ですので、私たちは保護者にもいろいろ聞きました。保護者は家計や子供の学力など、客観的な制約条件で進学するかどうかが規定されるわけですが、この額なら何とか負担できるという主観的な負担感の要素も入ります。教育熱心な家庭の家計は無理する家計ではないか。親が無理をしないなら、学生のほうがアルバイトをたくさんやり、勉強しない大学生をつくってしまう。両方無理することで成り立つ可能性もあるわけです。

調査では、学費や生活費をどの程度負担する意思があるかも聞きました。当然、学費と生活費を負担するという親は、所得階層が高いほど多くなります。調査時期が高3の11月から12月ですから、具体的に進路を決めた段階の現実的な答えです。どれくらい学費がかかると思うかも聞いていますが、かなり正確に知っています。むしろ高めに答えている。その費用を負担しようとしていることになります。

学費は、高所得層の場合、9割近い人たちが全額を負担するつもりですが、驚くべきなのは、400万円以下の層で5割の人が全額を負担するつもりだと答えたことです。国立大学でも、授業料56万円と入学金30万円ほどを負担しようとしている。全く負担できない人は8%しかいない。非常に強い意志を持っていることがわかります。生活費でも3分の1の人は全額を持つと言っています。自宅外ですと100万円以上かかります。

ただ、こういった無理が本当に続くかどうかが問題です。皮肉にも、日本が世界でも進学率が高い国になったという背景には私立大学が非常に伸びたことがある。そこから授業料を負担してでも子供を大学にやる親がいて、無理して進学率を支えてきた面がある。そのことが逆に、奨学金政策を熱心にさせなかったと考えられる。本当にこういったやり方を続けることができるのかが今、問われています。国立大学も授業料が急速に上がってきて、低所得層の負担感が上がっているという結果も出ています。

国際的にみると、日本と韓国が家計負担がものすごく大きい。半分以上が家計負担です。日韓とも私立大学が多い、授業料が高い、そのわりに奨学金が少ない、公的な負担が非常に少ないという構造です。韓国の場合も国立大学の授業料は相当高いです。OECDの統計が出るたびに、日韓が1、2位を争っている。両国の家計負担が飛び抜けて高い。ちなみに、その他の私的負担として、例えば民間の寄付や企業が持っている部分がありますが、これはアメリカが圧倒的に大きいです。

広がるローン回避

では、教育費負担をどうするか。所得や地域間格差が拡大すれば、無理する家計の無理が続かず、教育費の格差が固定化、拡大するおそれがあります。少子化の原因とも言われており、その意味でも今、教育費負担の軽減策が非常に問題になってきたと思います。将来の教育費に対する負担感が非常に強くなってきたため、子供のファイナンシャル・プランが立てにくく、将来に希望が持てない。逆に言うと、将来の見通しが明確になる対策が必要になる。単に教育機会を保障するというだけではなくて、教育費負担を軽減して機会を保障するということが問われています。そのためには、経済的支援がきちんとあることを明確にして、進学しても大丈夫だと示す必要がある。

問題として、現在の奨学金の形でいいか、本当に必要とされているだけ受給されているのかということがあります。各国で大きな問題になっていることが日本でも今、問題になりつつあります。返済の見込みがないからそもそも申し込まない。進学先を自宅から通える範囲に限定する、費用のあまりかからない専門学校を選ぶ、ひいては進学を断念するということが起きています。ローン回避は、イギリスとかアメリカでも大きな問題になっているわけで、こういった問題が奨学金の場合もあるわけです。

日本学生支援機構の奨学金は急速に増えております。多くの人たちがローンの奨学金を当てにして進学していることは間違いない。それに対して、受給率は3割程度ですから、まだ足りないとも言えます。問題は、借りたくないという方が低所得層に多いことです。奨学金はもともと低所得層の人たちの進学を助けて、教育の機会均等を達成するためのものですから、奨学金が奨学金の役割を果たせないということになってしまう。

これは各国共通の問題になっています。どこも授業料が非常に高くなっているからです。基本的にはヨーロッパはまだ無償ですが、それ以外の国は授業料を取り始めていて、特にイギリスはかなり高額な授業料ですし、アメリカ、韓国、中国、日本は、非常に高騰しています。対応して奨学金を上げていくことが基本ですが、そこの改革の仕方がかなり違っている。

もう一つ大きいのは情報ギャップがかなりあることです。奨学金の仕組みは、各国ともかなり複雑です。奨学金を必要としている低所得層に知らない人が多い。知っている人は得をして、知らない人は損をする仕組みになってしまっている。中国で大問題になり、アメリカとかイギリスでも相当問題になってきて、日本でも地方では、こういう問題が相当残っていると考えられます。

高授業料・高奨学金政策

授業料の問題は、奨学金とあわせて考えなくてはいけない。必ずセットの改革が進行しています。高授業料・高奨学金政策はハーバード大学などでとられている政策で、定価の授業料は大体3.3万ドル、330万円ぐらいですが、実際には平均でも7000ドルぐらいしか払っていない。払っている人はもちろん全部フルに払っていますが、払っていない人は全くゼロです。これはある意味でディスカウント、割り引いているわけです。定価は高いが、低くしている。

これは大学の授業料の性格によります。実は品質というものが見えない性格を持っていますから、定価を高くすることはブランドイメージがあるんです。300万円というとすごくいい教育をしているように聞こえ、10万円と言われたら教育の質が低いのではないかと思われますから、定価は非常に高く設定し、払えない人が出てきますから給付奨学金で低くするというやり方をしています。

教育費は、もともと公的負担が多かったのですが、だんだん私的負担に移ってきて、しかも親から子に移っているのが現状です。ローンは、親ではなく、子供が負担すると考えられる。ところが、先ほど申し上げたローンの負担回避問題から、各国とも急速にまたグラント(給付型奨学金)を重視する方向に変わってきて、これがこの2、3年で急速に変わったことです。

各国で授業料の徴収や高騰

オーストラリアは今から20年ほど前、高等教育貢献スキームと言われる仕組みを導入しました。それまで国公立大学は授業料を全く取っていなかったのですが、授業料を取るとなると、やはり教育の機会均等が大問題だということで、後払い制度にした。在学中は授業料を徴収しない。これはローンと同じです。ただ、おもしろいのは、前払いだと割引がある。最初は25%、今、20%になりました。

イギリスは、1998年から授業料徴収を始めました。現在では最高が3200ポンドです。ポンドは大分下がりましたが、当初は60万円くらいでかなり高かった。ドイツは、一部の州で一部の学生から取っています。

授業料の大幅な値上げが起きているのは、アメリカ、イギリス。中国も急速に上がってきたため、今、政府が6000元(約9万円)以上取ってはいけないと上限を設定しています。中国の場合はさまざまです。独立学院といって国公立大学が経営している私立大学があります。合格ラインが国公立大学より低いため,国公立大学に合格しなかった高校生の受け皿になっているのですが,これが1万元(約15万円)ぐらい授業料を取っている。普通の私立大学はもっと高い。韓国も非常に問題になっていて、特にソウル地区の国立大学の授業料も相当高いのです。

共通するのは、教育を受ける人が増えたので負担が増えたというマス化問題、公財政が中国を除いて非常に逼迫しているということ、学生1人当たり教育コストが非常に高くなっているということです。いい教育をしようとしたらコストがかかる。

アメリカの場合には、高授業料・高奨学金政策で、ハーバードだけでなく、今、広範に普及していて、例えば2008年度の公立4年制大学の授業料は大体1ドル100円だと44万円ですが、実際には19万円。私立も168万円なのですが、実際には100万円。私立で4割、公立では5割も割引しています。全員に同じ割引をしているわけではなくて、割引が全くない人から全額割引までいます。スポーツ選手や成績優秀者になると、割引どころか授業料がマイナスになる、つまりくれるわけです。

イギリスの場合には、2006年度に各大学が授業料を設定できることになりました。このときはまだ3000ポンド(約45万円)です。現在、3225ポンド。9割の大学が当時、3000ポンドにしたのです。2700ポンド以上に設定した場合は、大学が自分たちで決めて給付奨学金を出さなければいけない。イギリスでは政府が決めるということを嫌いますので、大学が自分たちで決める仕組みをつくりました。これはゼロから5000ポンドですから、授業料を超えて多く出してもよく、その受給基準や受給額は各大学が自分たちで決められる仕組みをつくった。政府としては最低でも300ポンド、1割ぐらいは出してほしいとしていたのですが、ふたをあけてみたら、ほとんどの大学が大体1000ポンドぐらいの給付奨学金を出しています。ですから、授業料が3000ポンドといっても、実際は2000ポンドということです。それ以外に政府給付奨学金(メンテナンスグラント)が今、非常に拡大して、もうほとんどカバーできるようになっています。これはブラウン政権のばらまき政策だという批判があるんですが、その結果、約3分の2の学生が給付奨学金を受けています。それ以外に、政府の機関であるスチューデント・ローン・カンパニーというところが授業料と生活費のローンを出しています。ですからイギリスの場合も、在学中はほとんど授業料と生活費を払わないという仕組みに変えているんです。

スウェーデンなど北欧諸国の場合には、もともと授業料がない上に、生活費も給付奨学金とローンで大体カバーできます。給付奨学金は所得が低い人にたくさん行くようになっていて、所得の高い人はローンでカバーする形です。学生自身は在学中、負担することはありません。

ローン負担が大きな課題

 もう一つ大きな最近の方向として、ローン負担が大きな課題になったということです。アメリカの場合、給付奨学金が充実しているだけでなく、貸与奨学金もかなりあって、政府保証の民間金融機関ローンが一番大きい。返済できないときに政府がかわって保証する。さらに、各州にある保証協会と二重保証になっています。政府保証だと、ほとんど回収できるので、もう最初から債券化してしまって売ってしまう。学生からすると、借り手がどんどんかわってくる。これには、結局、銀行がもうかるだけではないかという批判が強いのです。

 クリントン政権のときに、政府が直接やればいいとなって、直接ローンを始めました。この直接ローンがいいのか、政府保証民間金融機関ローンがいいのかで大論争が起きました。日本でいうと、郵政がいいのか、クロネコヤマトがいいのかという問題と似ていますが、サービスを競争することによってお互いよくなったと言われています。

 また、大学の理事会にはだいたい、金融機関の人や地元の人が入ってきますが、政府保証民間金融機関ローンによる金融機関と大学の癒着が相当問題になって、それも政府保証ローンをやめようという理由になりました。

 さらに、サブプライムローンの問題がありまして、実は政府保証がついても、民間金融機関のローン債券を投資家たちが買わなくなってしまい、ブッシュ政権の第二期には政府が買い取る政策を始めました。その結果、結局、ローン債券は政府が持っている。それなら、政府が直接やったほうがいいということで、オバマ政権は民間金融機関に対するローンの補助金を全部打ち切る政策を言い出しました(学生支援と財政責任法案(Student Aid and Fiscal Responsibility Act=SAFRA)。これを全部グラントに回すということで、今、下院を通って上院で審議中です。そういう形でグラント重視に変わったわけです。

 それからもう一つ、各国は、ローンの場合も返済免除の仕組みがかなりある。昔は日本育英会でも教員になると免除があったのですが、今はない。オバマ政権は、連邦ローンの一部については、25年間で返済し切れないときには、残額は帳消しにすることにした。イギリスも同じ仕組みを持っています。それから、10年間公共サービスに勤めた場合には、ローンは10年間支払い終わった時点で残額があれば帳消しにする、そういう仕組みが提案されている。公共サービスといっても幅が広く、民間でも公共的な性格が強いものが入ります。実現すると相当大幅な改革になります。

給付型奨学金が必要

中国も3年前に行ったときにはほとんどローンでやっていく姿勢だったのですが、8月に行ったら、やはりもたないということでした。ローンの場合、一番の問題は未返済問題が大きくなることです。中国では戸籍制度が緩んで、追跡システムがありません。対策の一つはローンの保証金。リスクを取る積み立てを始めて、政府と大学が半分ずつ持つ。おもしろいのはリスクの高さが大学によって違うんです。最高でローン総額の15%ですが、清華大学や北京大学は低い。危ない大学ほど高くなる、

もう一つは、グラントを大幅に拡大しました。国家励志奨学金という、経済的に恵まれていない人で、かつ成績優秀者について出すものをつくりました。日本の文科省に当たる教育部でも、各大学でも、経済的な理由で退学するということはあり得ないと言っていました。少なくともスローガン的にはそうなっているということです。

韓国も、現在の李明博政権になって、彼自身が苦学して大学を出たこともあるようですが、生活保護や、地方の出身者に対して給付奨学金を導入しました。韓国と日本は給付奨学金がなく、授業料免除があるというのが共通の特色だったのですが、韓国はついに給付奨学金を導入したのです。

繰り返しになりますが、無理する家計というのが格差を顕在化させなかった。ところが、このまま今のような格差が続いていくともたないということです。アルバイトの問題もかなり大きくなっています。単位の実質化といって、大学は今、学習の管理に乗り出し、授業に出るよう促しています。日本の大学では、アルバイトが社会勉強になっていいと、大学の教員も言っていたし、社会もそう思っていたのですが、本当に学習させようと思ったら、アルバイトが多過ぎるということは問題なわけです。

フランスやドイツ、イギリスでは、アルバイトに精を出すことで成績不良になる、奨学金がもらえないので、さらにアルバイトをするという悪循環になっている学生が多いのです。アメリカの場合には、アルバイトをまったくしない学生よりも、適度にしている学生のほうが卒業率が高いという調査結果もある。そういう違いはありますが、いずれにしても過多は問題です。

さらにローン回避の問題も考えると、給付奨学金というのはやはり必要だろうと思います。ただ、あまりにも複雑で選択肢が多くなると、情報ギャップの問題が大きくなります。例えばアメリカの教育減税は7種類あって一つしか選べないのです。これは相当金融知識があって、どの減税が一番いいかわかる仕組みを知らないと選べない。奨学金も、給付奨学金は数種類あり、州レベル、連邦レベル、大学、民間、さまざまあります。ローンも、銀行のローン、政府保証ローン、政府のローンと、非常に複雑になってしまう。

ですから、見通しが明確になりプランを立てられるよう、高校のうちにしないといけないわけです。予約奨学金の制度や、キャリア教育、金融教育という仕組みも必要だろうと思います。アメリカの場合には進学時点でファイナンシャル・プランを大学が送ってきます。この大学に入ったらこういうふうにして学費、生活費を賄うんだとわかる仕組みです。こういう仕組みも必要だと思います。

大きな問題としては、大学に対する補助が授業料を下げるわけです。国立大学も補助がなければ授業料を上げざるを得ないし、私学助成で私立大学の授業料はある程度下がっています。民主党政権は機関から個人に補助を持っていくと盛んに言っていますが、高等教育では機関補助と個人補助をどうするかが問題になっているということだと思います。

(読売新聞東京本社調査研究本部教育研究会、2009年10月30日)