『徳島新聞』2009年11月18日付

鳴門教育大学の次期学長に選ばれた
田中雄三(たなか・ゆうぞう)さん


「教育大学の学長になるなんて、想像もしていなかった」。鳴教大で初めての医学部出身学長は、そう切り出した。通称は「ひげの先生」。柔和な物腰が印象的だ。

鳥取市出身。小学4年生のときにシュバイツァー博士の伝記を読み、医師を志す。1971年に鳥取大医学部を卒業後、大学に残り診療や医学教育に従事した。専門は精神医学。自分自身を「自己不全性格」と分析する。自信が持ちづらいタイプなのだという。

それは必ずしも否定的なことではない。「いきなり大きなことをやろうとはしない。地道に努力して目の前のことを着実にクリアしていく」。理事としての5年間、山積する大学運営の課題を、一つ一つ確実に解決。手堅さでは定評がある。先の見えないこの時代、堅実さこそトップに求められる姿勢なのかもしれない。

医者としての20年間の経験を教員養成に生かそうと91年、鳴教大の生徒指導講座の教授に就任した。95年からはスクールカウンセラーとして鳴門市内の中学校を訪問。生徒や保護者の悩みに耳を傾け、心のケアに尽力してきた。

「相手が伝えたいことをじっくり聞くのが精神医学の基本。思いもかけなかった、いろんなことに気付かされる」。来年4月の就任後は学長と学生、教職員が自由に意見交換できる場を設け、さまざまな考えを聞いて判断材料にする意向。

現場で求められる教員像を「子ども、保護者、同僚と確かな人間関係を築ける人材」とし、コミュニケーション能力と専門性の高い教員の養成を一番の目標に掲げる。そのために、理論・実践・検証を徹底し、根拠に基づいた教育の重要性を説く。

父親は小学校の教員だった。「父の影響で教育の分野に進んだわけでは・・・。でも教育現場が肌に合っている点は父に似ているのかな」。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。

鳴門市撫養町小桑島。67歳。