『河北新報』社説 2009年10月23日付

教員養成6年制/制度の改廃で成果上がるか


文部科学省は本年度導入した教員免許更新制を来年度にも廃止し、養成課程を大学院修士コースを含めた6年制とする方針を固めた。教育は「国家百年の計」。教育の根幹にかかわる制度がくるくる変わるようでは、現場への影響が心配だ。

見直しは民主党が衆院選で掲げたマニフェスト(政権公約)に沿っている。大胆な方向転換が提示されるのは当然としても、現行制度の検証もないままの朝令暮改は疑問だ。

新制度では教員志望者に大学の学部卒業後、修士号取得を義務付ける。現行2〜4週間の教育実習は1年間に延ばし、教職への最初のハードルを数段高く設ける形になる。

教員になる勉強をじっくり積むシステムには、一定の評価もあろう。あらかじめ高い素養を身に付けた意欲のある人に教職を目指してもらうという意図は分かるが、職業選択の幅を狭めてしまうことにならないか。

6年制は教育先進国フィンランドを意識しているとされる。教職の社会的ステータスが高いフィンランドでは、教師は尊敬される存在で専門職として位置付けられてきた歴史がある。

本年度の免許更新制導入の背景を見ても分かるように、日本では教員の適格性の欠如、指導力低下が強く懸念されてきた。それが今の教育界の現状だ。一足飛びに6年制に移行し、打開を図れる問題だろうか。

不適格教員を生むことを恐れるあまり、多様な個性を切り捨てれば教育現場は画一化される。経験を積んで「良き教師」に成長する若者の可能性を摘むことになるのではないか。

1年間の教育実習も、受け入れる学校側の負担、学生の労力を考えれば、制度化は容易でない。結果的に教職志望者が減ってしまう不安すら抱かせる。

現職教員の質を高める対策としては、8年以上実務経験した人を対象に「専門免許状」を与える制度を新設する。(1)教科指導(2)生活・進路指導(3)学校経営―の各分野で一段高い職業能力の開発を図る狙いだ。

これらの新制度は、全国に24校ある「教職大学院」を核にして進める予定で、文科省は都道府県ごとの教職大学院設置も検討するという。東北で現在開設されているのは宮城教育大と山形大。大学院教育の質と量を全国的に整えるには時間が要る。

更新制導入による更新時講習と認定試験も、教員の能力向上を目指したはずだった。しかし、講習内容は実施する大学などに任され、試験の評価基準も一律ではない。制度が形(けい)骸(がい)化する不安が強くあり、廃止の論拠の一つだったことは確かだ。

「多忙な現場の教師に負担を掛けるだけ」「日常的な研修制度の充実の方が有効ではないか」といった批判の声は当初からあった。しかし、新制度がこれらの疑問に対する的確な回答になっているようにも思えない。

教育現場で教師の意欲と能力が、どう発揮されるかが最大の問題だ。制度をいじるばかりで本来の教育成果を引き出せなくなるのは本末転倒。先を急がず腰を据えた議論を望みたい。