『沖縄タイムス』社説 2009年10月20日付

[教員養成6年制]教育力を向上するには


文部科学省は教員免許制度を見直し、大学院2年を加えた6年制(修士)導入を検討する。教員の質向上を目的としている。学校現場の教育力をいかに高めるかという総括的な議論に深めてほしい。

フィンランドなどの欧州では主流で、それをモデルにしているという。民主党が政権公約(マニフェスト)に掲げた教育改革で、2010年度に調査、早ければ11年にも新制度に移行する考えだ。

文科省は全国24校ある教職大学院を各都道府県に最低1校設置したい考えで、指導教官の増員などにも財源確保が不可欠だ。

教員の質向上に予算を割く必要性について、現状の問題点を洗い出す作業も含めて明らかにすべきだろう。

学校は日々児童・生徒と向き合う職場のため、大学で学んだ学問をそのまま当てはめることはできない。現場感覚が求められる。

新制度では教育実習を現行の2〜4週間から1年程度に拡充する。大学1年のときから実習を可能にして、小学校の入学児童を卒業するまで見届けるケースも想定しているという。

志望者が卒業するまでに学校現場をよく見聞し、教育を職とするイメージを広げるトレーニングは大事だ。鈴木寛副大臣は「6年制にすればより強固な意志を持った人が教員を目指す。実習を受け入れる側の熱意も高まる」と期待する。

反対論もある。学費負担が大きくなり、志望者が減るかもしれない。大学院へ進むとつぶしがきかない―などだ。

民主党は奨学金制度の充実も政策に挙げているが、基本的にはそれも“借金”だ。欧州をまねるなら、思い切った学費助成や少人数学級の導入、画一的な教育でなく現場の裁量権を拡充させた新たな教育文化を構築すべきだ、といった指摘も当然だろう。

教員の質向上を検討するには、現在の学校における教育実践力の点検も必要だ。

現役校長からこんな嘆きを聞いた。「運動会や学芸会がバラエティー番組のような演出になる」。テレビではやりのにぎやかな踊りが学校の催しを席巻する。

指導の手間はあまりかからないだろうが、表現力を磨くオペレッタなどと比べて教育効果はどれほど望めるのか。それを好む子どもの「主体性」という言葉に押し流される風潮はないだろうか。

養成や採用後の研修を一体的に再構成し、職員間でも互いに刺激し合いながら教育の質を高めてもらいたい。

自公政権が今年導入した「教員免許更新制」は、教員の力量アップにはつながらないとの批判もあり、廃止する方針だ。

民主の免許制度改革には、現場で10年程度経験を積んだすべての教員が大学院などで1年程度の研修を受け「専門免許状」を取得することを事実上義務化する考えも含まれている。

教育にも政権交代の風が吹きつつある。目指すべき教員像、学校環境、教育文化とは何か、明確なメッセージを発信してもらいたい。