『信濃毎日新聞』社説 2009年10月20日付

教員養成 6年制は課題が多い


教員の資質の向上を目的に本年度スタートした教員免許の更新制度が、来年度にも廃止される。鳩山政権の方針である。

代わりに打ち出されたのが、教員養成課程の延長だ。現行の4年制に大学院2年を加えて6年制にする。早ければ2012年度に移行する方針という。

免許更新制は、安倍内閣が07年に導入を決めた。10年に1度、30時間以上の講習を教員に義務づける。受講しないと免許を取り消されるため、先生たちは休日返上で講習を受けている。

現場の負担が大きく、実効性にもかねて疑問が出ていた。廃止することに異論はない。

教師の質を高めることにも賛成だ。ただ、それだけの準備もなしに、唐突に6年制を導入するのは考えものだ。教員を目指す学生や学校現場は戸惑う。

鳩山政権の目指す教育政策の全体像がまだ見えない。先の総選挙も、教育費負担の軽減策が焦点となり、教育の中身に踏み込んだ論議は乏しかった。

教育は社会の担い手をはぐくむ土台になる。10年、20年先も見据えたうえで、教育の質をどう高めていくのか。まずは全体の見取り図を描いてはどうか。教員養成の方向性は、そのなかにおのずと位置付けられる。

6年制は民主党の政権公約でもある。構想では、志望者は学部を卒業した後、大学院で修士号を取得する。教育実習も1カ月程度から1年に延ばすという。

真っ先に心配になるのは、教師を目指す学生の経済的負担が重くなることだ。民主党は大学生を対象にした奨学金制度を拡充する方針だが、財源も含めて中身を詰めるのはこれからになる。

「出口」の問題もある。教員採用試験は「狭き門」だ。養成に6年を費やして、先生になれる保証がないとすれば、有能な人材が遠ざかってしまうおそれはないか。

養成の受け皿の「教職大学院」も足りない。文部科学省は増設を検討しているものの、人材の確保をはじめ、急ごしらえでできることではない。

そうした態勢を整えるまでは、まず現職教員の研修を充実させることだ。実際に教壇に立ち、子どもと向き合っている現場の教師が、力をつけられる環境にすることが大事である。

社会人が教員になる道を広げることも効果的だろう。多様な人材が得られるうえ、人生にさまざまな道があることを、教師が身をもって示すことができる。