『東京新聞』社説 2009年10月16日付

教員養成6年制 志望者が減少しないか


教員の資質向上策として養成期間を六年とし、修士号取得の義務化が検討されている。大学院を増やさなくてはならず、学生には時間と学費の問題が生じる。教員志望者が減ることにならないか。

民主党は教員養成課程についてマニフェストで「六年制(修士)とし、養成と研修の充実を図る」と記しており、川端達夫文部科学相は就任直後に「着手は早速にさせたい」と述べていた。

新制度は大学卒業後に大学院で修士号を取得させるほか、教育実習を一年間通して行うことなどが検討されている。

六年制は教育先進国とされるフィンランドなどをモデルにしたようだ。大学院教育を施し、教員の質を高めるとの狙いは分かるが、免許取得までに医師並みに六年かかる問題は決して小さくない。

まず、養成機関が整備されていない。文科省は「教職大学院」の活用を考えているようだが、現在の修了者は年千人に満たない。一方で教員採用者数は公立小中高校だけでも毎年二万人にのぼる。

教員養成の大学院を各地に一気に増設しなければならなくなるだろう。大学院教育の質を保証しつつ、カリキュラム編成や指導教授の確保は可能なことなのか。

なにより、教員を目指す学生には現行に比べ、大学院の学費と二年の時間がかかることになる。

六年がかりで勉強しても教職は多忙なわりに収入が見合わない。免許を得ても採用されなければつぶしが利かなくなる。若者はそんな懸念を抱くのではないか。

教員の待遇が変わらないままで養成六年制に移行すれば、教員志望者は減少するにちがいない。

本年度から始まった教員免許更新制は来年度限りで廃止される見通しだ。導入目的が不明、講習内容が乏しいと批判が多く、廃止は妥当といえよう。しかし、それに代わる制度が六年制では愚策を繰り返すおそれがある。

喫緊の課題は教員が子供と向き合う時間を確保し、教育に集中できる環境づくりであり「教員数の充実」を優先すべきだ。

いまは、教育学部などで四年間の課程を修めるほか、文学部や理学部などであっても教職課程を履修すれば教員免許が取得できる。「開放制教員養成制」といい、人材の多様化につながっている。

大学院で画一的に教員養成するよりも、社会人採用を広げたほうが、より速やかに数の充実や質の向上が図れるのではないか。