『毎日新聞』2009年9月30日付夕刊

日本学生支援機構:奨学金ずさん管理、130億円未回収 転居把握せず−−検査院指摘


大学生に奨学金を貸与する独立行政法人「日本学生支援機構」(旧日本育英会)で2253億円もの未回収金が生じている問題で、このうち約130億円は、機構側による貸出先住所のずさんな管理が主な原因であることが、会計検査院の調べで分かった。奨学生の転居は卒業直後にピークを迎えるのに、卒業後半年間は接触しないシステムを続けてきたためで、検査院は改善を求める方針。一方、貸与型奨学金を巡る問題点が改めて浮かんだことで、専門家からは、海外で主流の給付型の導入を求める声が強まっている。

支援機構によると、奨学金を貸与する学生には入学直後と卒業直前に住所を知らせるよう求め、転居ごとの届け出も呼び掛けている。卒業直前の住民票提出は今年度から義務化されたが、提出しなくともペナルティーはない。

卒業後は、ただちに返還を求めると奨学生の負担が大きいとして、8月中旬に返還開始の通知を送り、実際には10月から引き落としを始める。ただし、このシステムでは、滞納者と実際に接触を試みるのは早くても卒業から半年後。就職などに伴う転居が多い卒業直後には奨学生と接触しないため、転居先の届け出がないまま未回収になるケースも少なくないという。

検査院は、住所が分からないことで、悪質な延滞者への督促が不十分になるだけではなく、資力の乏しい奨学生に対して事情に応じた返還指導もできなくなる点を問題視。卒業後、早い段階で住所を把握できるようにするため、就職先や住所変更を把握し得る大学や同窓会との連携を含めて改善を求める方向で調整している。【苅田伸宏、松谷譲二】

◇「給付型」検討を−−奨学金問題に詳しい小林雅之・東大教授(教育社会学)の話

未回収額が増加した原因は、進学率の上昇による貸与者増に加え、返済できるのに返さない奨学生に対する回収の甘さだ。返済できなくて困っている人かを見定めるためにも、住所情報の取得は不可欠。先進国の奨学金は、返済不要の給付と貸与の併用が主流。深刻な不況の影響で返済できない奨学生はさらに増える。日本の制度は限界に来ており、給付型の導入を検討すべきだ。

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■ことば

◇日本学生支援機構の奨学金

無利子の第1種、有利子の第2種があり、すべて貸与型。08年度で第1種2793億円、第2種6512億円、計122万人に貸与した。10年前より金額で3・5倍、人数で2・4倍に増加。07年度の延滞債権は2253億円と10年前の倍に達し、文部科学省は昨年、11年度までに半減する目標を示した。延滞理由の上位は低所得や失業。