『毎日新聞』2009年10月3日付

新教育の森:付属校増やし、小中学生確保 将来の学生「囲い込み」に走る私立大学


首都圏や関西の有名私立大学の間で付属や系列の小中学校を増やす動きが加速している。少子化で大学同士の競争が激化するなか、早い段階で優秀な生徒を囲い込むのが狙いだ。【井上俊樹】

9月13日、早稲田大学(東京都新宿区)のシンボルの大隈講堂で、早稲田の付属・系列校計7校を目指す小学生を対象にした初の合同学校説明会が開かれた。午前と午後の2回に分けて行われた説明会に参加した親子連れは約1200人。周辺では保護者らにパンフレットを配る進学塾関係者の姿も目立った。

◆早大進学100%の魅力

今年注目を集めたのが、来年4月、練馬区の早稲田大学高等学院に新設される中学部だ。早稲田には原則として全員が大学まで進める「付属校」と、別の学校法人が運営し、大学への内部進学枠が30〜90%の「系属校」の2種類あるが、新設の中学部は付属校では初の中学となる。学校側の説明が、試験科目や面接時間など来年2月1日に行われる入試に及ぶと、熱心にメモを取る保護者の姿が見られた。

夫婦とも早稲田OBという横浜市港北区の主婦(40)は小学5年の長男(11)を連れて参加。「周りは半分以上、中学受験する。私たち夫婦も大学時代が楽しかったから、息子にも早稲田に通ってほしい。100%大学に上がれる中学ができるのは大きい」と期待をのぞかせた。

◆「関関同立」相次いで

早稲田は地方にも触手を伸ばしており、09年春には、大阪府茨木市の既存の中高一貫校を系列化して「早稲田摂陵中学・高校」を開学。来春には佐賀県唐津市にやはり中高一貫系属校の「早稲田佐賀」を開設、寮も設置して九州全域から生徒を集める計画だ。このほか、首都圏の私大では中央大が来春、初の付属中学を開設し、青山学院大や慶応義塾大などでも付属校を増やす計画がある。関西では「関関同立」と呼ばれる、関西大、関西学院大、同志社大、立命館大が相次いで小学校を開設。既存の学校法人を合併して付属化したり、提携校との間でエスカレーター式の入学枠を設けて事実上系列化したりと、首都圏以上に激しい「囲い込み」競争を展開している。

こうした競争の背景にあるのが少子化だ。92年に約205万人いた18歳人口は現在約121万人。89年度に16万人いた志願者が12万人余に減った早稲田大の土田健次郎副総長は、「以前のように一般入試だけで学生が集まる時代ではなくなった」と語る。

他方で中学受験者数は増え続けている。中学受験塾大手の日能研(横浜市港北区)によると、首都圏では小学6年生の5人に1人、関西でも10人に1人以上が受験するという。日能研進学情報室の井上修室長は「家計が悪化しても教育費を削るのは最後。逆に将来のために教育に投資しようと考える親も多く、当面受験者が減ることはないだろう」と言う。大学側からすれば、学生の質を落とさずに学校規模を維持するには少しでも早い段階から生徒を囲い込まざるを得ないのだ。

◆ブランド力に陰り

とはいえ、小さなパイを奪い合う状況に変わりはない。早稲田摂陵の場合は受験者が募集定員に届かず、中高とも大幅な定員割れでスタートした。私大経営に詳しい高等教育総合研究所(東京都千代田区)の亀井信明社長は「少子化で大学に入りやすくなっており、保護者も以前のようにエスカレーター式に上がれるという理由だけで選択するわけではない。付属、系列校でも大事なのは教育の内容。大学のブランドだけで生徒が集まるとは限らない」と指摘している。

◇高校生にもアプローチ

◇高大連携−−大学の授業受講で推薦入学/聴講分の単位先取り

高校生が大学で授業を聴講したり、大学の教員が高校に出張して授業したりする「高大連携」。近年急速に拡大しているこの取り組みを利用して、生徒集めにつなげる大学もある。積極的なのが立命館大(京都市北区)だ。

05年度の理工学部と情報理工学部を皮切りに、各地の高校と「高大連携に関する協定」を締結した。目玉は高校3年生を対象にしたプログラム。5〜6月に計4回行われるウェブ授業と、夏休み中に大学で丸2日間行われる対面授業を受講した上で、リポート提出など一定条件をクリアした生徒を「高大連携特別推薦」枠で受け入れる制度だ。09年度は6学部が全国の高校66校と協定を締結し、636人が受講登録した。立命館志望者以外も受講できるが、08年度までの4年間に受講登録した2081人のうち半数超の1172人が入学した。

桜美林大(東京都町田市)の高大連携は、授業を聴講した高校生が入学すれば、受講分の単位を大学の卒業単位に算入するのが特徴だ。高校時代に単位を「先取り」することで入学へとつなげるのが狙いだが、毎年35〜70人前後の受講者のうち入学者は数人から20人程度にとどまっている。桜美林大は124単位を取得すれば3年で卒業できる制度を01年度に導入しており、年間120人程度が一足早く大学院に進んだり、留学したりしている。大学側は単位の先取りで早期卒業が容易になるとアピールして、連携の拡大を目指している。

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【私立大学による付属校・系列校開設を巡る最近の動き】

早稲田  09年 摂陵中高を系属化       大阪府茨木市
      10年 早稲田大高等学院に中学部設置 東京都練馬区
      10年 早稲田佐賀中高開校      佐賀県唐津市
中央   10年 中央大付属高校に中学設置   東京都小金井市
      11年 横浜山手女子学園中高を付属化 横浜市中区
青山学院 計画  中学高校を新設        神奈川県相模原市
慶応義塾 計画  小中学校を新設        横浜市青葉区
関西   08年 北陽高校を付属化       大阪市東淀川区
      10年 関西大北陽高校に中学設置   同
      10年 関西大初・中・高等部開校   大阪府高槻市
関西学院 08年 関西学院初等部開校      兵庫県宝塚市
      10年 千里国際学園中高を付属化   大阪府箕面市
同志社  06年 同志社小学校開校       京都市左京区
      11年 同志社国際学院初等部開校   京都府木津川市
立命館  06年 立命館小学校開校       京都市北区
      06年 守山市立守山女子高を付属化  滋賀県守山市
      07年 立命館守山高校に中学設置   同