『西日本新聞』社説 2009年9月23日付

新司法試験 放置すれば理念が揺らぐ


こんなぶざまな状態を放置はできない。4回目となった今年の新司法試験は合格率が過去最低を更新したばかりか、合格者数が初めて前年を下回った。制度のあり方を抜本的に見直すべきだ。

新司法試験は原則、法科大学院の修了生しか受験できない。合格率は48%だった1回目の2006年以降、下がり続け、今年は28%になった。それでも合格者数は毎年増えていたが、今年はついに2043人と昨年より22人減ったのだ。

政府は、新制度で合格者数を段階的に増やし、来年ごろには3千人にする想定だったが、遠く及ばない。これでは、弁護士、裁判官、検察官の法曹人口を現在の約3万1千人から18年ごろまでに5万人にする計画の実現は極めて難しい。

司法改革で見込まれた「合格率7―8割」という目算は、当初から外れている。なぜか。法務省は「合否の判断基準は変わっていない」と、受験する大学院修了生の能力不足を指摘する。

そうであるならば、まず法科大学院の「質」こそ問われるべきだろう。

もともと大学院は全国で74校と乱立気味で、総定員が1学年約5800人に膨らんだ。今春の入試では志願者数が前年度より25%も減り、定員割れは全体の8割に当たる59校に上った。乱立が新司法試験の合格率低下を招き、それがさらに優秀な志願者を遠のかせるという悪循環に陥っているのは間違いない。

中央教育審議会は4月、報告書で入学選考の厳格化や定員削減を求めた。入試段階から学生の質を見極め、教育水準を保証する。教育の質を高めるためにも定員減は必要だろう。各校の自主的な取り組みで、2年後には全体で定員が2割程度減るという。それでも実績を挙げられない大学院の再編は避けられまい。

法科大学院の設立を安易に認めてきた文部科学省の責任は重大である。法務省と連携し、各大学院を指導すべきだ。

その際、地域に根差す法律家養成を目指す地方の法科大学院の重要さを忘れないでほしい。大学院は関東、関西に6割以上と集中しすぎている。今回、九州大など九州・沖縄の7校の合格率はすべて全国平均に届かなかったが、定員削減や連携強化など改善努力を続けている。

さらに、新司法試験自体に問題はないか。社会人や法学以外の学部出身者にも門戸を開き、大学院に3年制の未修者コースを設けたのは、人間性あふれる多様な人材を集めるためだ。試験の内容や仕組みがそうした特性をくみ取るものになっているのか、検証が必要だろう。

法曹人口を増やし、市民に身近な開かれた司法にする。それが司法改革の理念であり、その理念を支えるのが新司法試験と法科大学院である。裁判員裁判や法テラスの定着もかかっている。

今後とも合格者数が増えなければ、改革の理念から遠ざかる。政府や関係者は、そのことを肝に銘じるべきだ。