『朝日新聞』2009年9月24日付

救命救急センター どう再建


◆鳥取大の本間正人教授に聞く

今年3月、救急医4人全員が一斉に辞職し、鳥取大学医学部付属病院(鳥取県米子市)の救命救急センターは一時、崩壊の危機に直面した。再建に取り組んでいる新センター長の本間正人教授(47)に、地域における救命救急のあり方や、医師の勤務態勢について聞いた。
(佐藤建仁)

◆「重症者の施設」徹底

――センターはなぜ、崩壊寸前に追い込まれたのでしょうか

救命救急センターは本来、第3次救急に分類される重篤な患者さんの命を救う場所です。しかし、ここでは軽症の第1次救急の患者さんが9割近くを占め、スタッフに大きな負担を与えたことが原因だと思います。大学病院に救命救急センターの看板を取り付け、「24時間誰でも来て下さい」とアクセスをよくした結果、「コンビニエンス病院」と勘違いしてみんな来てしまったのでしょう。

――センターをどのように立て直していきますか

救命救急センター設置の趣旨を再確認し、混乱した状況を平穏に戻すことが必要です。8月1日から、夜間・休日に受診された患者さんのうち、入院を必要としない方からは、診療費とは別に5250円の時間外診療特別料金の支払いをお願いしています。軽症の場合には、日中の受診や、近隣の病院への受診を誘導するためです。鳥取大学が提供できる高度な医療は、センター周辺の患者さんだけでなく、もっと広い地域、県境を越えた半径90キロのエリアの重症患者に提供しないといけないと考えています。第3次救急に全力を注ぐ態勢を構築することが当面の目標です。

――近隣の病院は、軽症患者を受け入れるでしょうか

鳥取大学が救命救急センターを設置する前は、各病院が救急患者を受け入れていました。米子地域は病院の数が非常に多く、医師の数も多いので、患者さんを受け入れることは可能だと思います。近隣の病院での受け入れが難しい場合、我々が支援するような態勢をとるのが次のステップです。結果的に、地域の救急医療のレベルが上がることにつながると考えています。

◆3交代で医師負担軽減

――医師の過酷な労働環境は改善されましたか

現在、救急災害科は私を含め2人ですが、外科や内科など9科から派遣された医師11人と、研修医を含めた約15人がセンターに所属しています。午前8時半〜午後5時、午後4時〜翌日午前10時、午前8時半〜午後9時の三つのシフトを組み合わせた勤務交代制を導入しました。救急医療では労働力は常に必要なのではなく、必要な時に招集できればいい。携帯メールで医師を呼び出すシステムも採り入れました。安全な医療を提供する上でも、働いている人の健康を保つために過重な労働をなくすことは大事です。この勤務態勢はまだ導入しているところが少なく、シフトには本人の希望も反映しています。学会に参加したいなどの医師のニーズにもあうという長所があります。

――センターは維持できるのでしょうか

勤務交代制を導入できたのは、院内の各科から医師補充の協力を得られたからです。逆に、人数が減ればシフトが組めなくなり、ある時間帯は閉鎖するということにもなりかねません。病院全体で支援すれば、センターは維持できることはわかった。問題は、この支援がどこまで続けられるかにかかっています。「地域の救急の要が消えます」という病院長の一言が心に突き刺さり、センター長を引き受ける決心をしました。地域を支える若い救急医を育てることが、これからの私の使命だと思っています。

● 取材後記 〜 センターの役割 住民の認知必要 ●

「状況を変えるには私が辞めて訴えるしかない」。他科からの支援が得られない状況に絶望した八木啓一・前センター長の言葉は、皮肉にも「救急崩壊」が現実となることで病院の結束を引き出した。勤務交代制を導入するなど、改革を次々と実行する本間さんの手腕を高く評価する声は多い。しかし、院内の協力が続くことはもちろん、救命救急センターの役割が地域住民に正確に認知されることが再建の鍵だと感じた。