『中国新聞』社説 2009年9月12日付

新司法試験 見直しに地方の視点を


裁判官や検察官、弁護士を増やすために創設された法科大学院が、スタートから5年で早くも試練を迎えている。

おととい発表された法科大学院修了者を対象とする2009年新司法試験の合格者は、昨年より22人少ない2043人。目安とされた「2500〜2900人」を大きく割り込んだ。合格者数が前年を下回ったのは初めて。合格率も過去最低の28%に落ち込んだ。

法科大学院は、裁判員制度などと並ぶ司法制度改革の柱の一つである。暗記と受験テクニックに偏りがちだった旧司法試験の反省から、大学院でまず実務・実践的な法理論を学ぶ。そのうえでいわば「修了試験」として新試験を受ける仕組みだ。

政府は、10年ごろに年間合格者を3千人にまで増やす方針だった。しかし、計画の実現は極めて難しい状況になった。当初の構想では、新司法試験の合格率を70〜80%としていた。ところが、年々下がって今回は2割台になってしまった。

中国地方4法科大学院の合格率は広島大25%(合格者21人)、岡山大25%(13人)、広島修道大13%(6人)、島根大4%(1人)。いずれも全国平均を下回った。

合格率低下の大きな原因は、法科大学院が74校にも上り、総定員が約5800人と膨らんだことにある。安くない学費を出して法曹界を目指す学生たちには「こんなはずでは」との思いも強かろう。

今春の入試では、法科大学院への志願者数は、前年度より25%も激減。8割の59校で入学者が入学定員を下回った。法科大学院の乱立が司法試験合格率の低下を招き、志願者減につながっているのは間違いない。優秀な人材が法曹界への転身を敬遠し始め、それがさらに学生の質を下げるという悪循環に陥っていないだろうか。

危機感を抱いた日本弁護士連合会や中央教育審議会が、相次いで定員削減を提言した。学生の質を確保する観点からも、やむを得ないだろう。

文部科学省は各校と調整を進め、来年度は定員を399人削減する。11年度までに計千人程度減す方向だ。中国地方の4校でも2〜4割減になる。

ただ、このような事態を招いた責任は文科省にもある。規制緩和政策で基準に達したところはすべて認可したからだ。

定員削減や統廃合は避けられないとしても、見直しには地方の視点が欠かせない。司法改革は「弁護士過疎」の解消も大きな柱である。「地域に根ざした人材育成」のためにも、まず都市部を中心に手をつけるべきだ。また、大学院側も他校と連携や統合するなどの生き残り策を探ってほしい。

法科大学院に法学部以外の出身者や社会人など多様な背景を持った学生を集める。新しい教育を核として質量ともに分厚い法曹人を生み出していく。司法改革の基礎には、こんな理念がある。法科大学院と司法試験の在り方を含め、法曹の養成制度を見直したい。