『信濃毎日新聞』社説 2009年9月12日付

信大4人合格 法曹を地元で育てたい


信大法科大学院(松本市)から初めて、新司法試験の合格者4人が誕生した。

最初の修了者を出した昨年は、合格者がゼロだった。早く合格者を出さないと存在意義にかかわる−。そんなプレッシャーがあった。関係者は胸をなで下ろしていることだろう。

ここで気を抜くことはできない。合格したといっても、まだ4人だ。法科大学院の削減・再編論議も出ている。

地方の小規模校をめぐる環境は厳しい。信大は気を引き締めて、県内で活躍できる人材をさらに育ててほしい。

法務省の発表によれば、2009年新司法試験の合格者は全国で2043人。今回初めて全74校から合格者が出た。

しかし合格者数は前年を下回っている。政府は、10年ごろに年間3千人に増やす計画を掲げるものの、容易ではない。

合格率も過去最低を更新し、28%になった。信大は26人が受験し、合格率は15%余だった。

法科大学院は、少人数で実務教育をする米国のロースクールがモデルという。ここに入れば誰もが法律家になれる。そう信じていた人は多いはずだ。

現実は違った。合格率は当初、修了者の7割程度と言われたが、全体で3割に満たない。

法科大学院は乱立気味で、今春、信大はじめ全体で8割が定員割れになっている。

危機感を持ったのだろう。中教審の法科大学院特別委員会は4月、報告書で入学定員の見直しを提言した。合格実績を重視する動きも強めている。「入り口と出口」に目を光らすことで学生の質と教育の質を高め、合格率を引き上げる狙いという。

来春の定員は、74校全体で千人程度が削減される見通しだ。逆風はさらに強くなる。

合格さえすればいい、という風潮にならないか心配だ。受験対策ばかりが優先されれば、予備校と変わらなくなる。社会人ら多様な人材も集めにくくなるだろう。学生の質を高めたいのなら、国はもっと支援を強めるべきだ。

合格者は、大都市圏の法科大学院に集中している。「弁護士過疎」をなくすのが、司法改革の趣旨の一つだ。地域的な偏りが広がらないよう、全国的なバランスを考える必要がある。

信大は、県弁護士会と連携しながら、学生にきめ細かく対応することで一定の成果を出した。取り組みを軌道に乗せたい。