『読売新聞』埼玉版2009年9月13日付

政権交代  悲喜こもごも


民主党の衆院選圧勝を受け、16日には新政権が発足する見通しだ。政権交代の秒読みが始まる中、敗者の自民党では、落選した前議員の秘書らが新たな職探しに奔走。逆に、民主党からは「秘書が足りない」と悲鳴も聞こえる。宴(うたげ)の後は悲喜こもごも――。

■議員引退

「政権交代という歴史的な節目を迎え、世代交代のために引退を決断した」

8日、草加市の自民党草加支部。3区で落選した今井宏氏(68)は、支部役員約10人を前に宣言した。市議、市長を経て、衆院当選4回。総務副大臣も務めたが、民主党候補に6万票以上の大差をつけられた。支部は今月いっぱいで閉鎖、5人の秘書が職を失う。

小選挙区で敗れ、比例復活もできなかった自民党前議員は県内で13人。4区の早川忠孝氏(63)は弁護士に転身する。「若い人が先頭に立って自民党を改革してほしい」と語る。

一方で、捲土(けんど)重来を誓って動き出した前議員も。小泉旋風に乗って2005年の衆院選で初当選し、「小泉チルドレン」ともてはやされた牧原秀樹氏(38)(5区)と田中良生氏(45)(15区)は、次の衆院選に向けて投票日翌日から朝の駅頭立ちを再開している。

■職探し

落選の悲哀を味わっているのは前議員だけではない。国会議員は、政策秘書1人を含め3人まで秘書の給与の面倒を国が見てくれるが、落選すれば、すべて自費で雇わなければならない。多くの秘書や事務所のスタッフが職を失うことになる。

当選した自民党新人議員は全国で5人しかおらず、失職した秘書らの転身は困難だ。ある秘書は「落選議員の秘書仲間で集まったが、クールビズの季節なのに就職活動のため皆ネクタイをしていた」と苦笑い。支持者へのあいさつ回りなど“敗戦処理”に追われる秘書は「家族を養わなければならないが、再就職先を考える余裕がない」とこぼす。

「民主党に行くことも考えているし、そういう話も来ている」と明かす公設秘書がいる一方で、経験40年以上のベテラン秘書は「しばらく充電して別の仕事を探す」と引退を決めた。

■秘書求む

一方、民主党は人材不足に頭を悩ませている。新人議員は事務所の体制を一から整える必要があり、森岡洋一郎氏(34)(13区)の事務所では、新たに公設秘書3人と私設秘書を数人雇う予定。「今、秘書は1人。縁があれば自民転職組でも構わない」という。

当選3回目の神風英男氏(47)(4区)の事務所も秘書を1人増やす意向。政権交代が決まってから増えた陳情に対応する。秘書は「選挙後、大学関係者が国の助成金の関係であいさつに来た。野党時代では考えられない業種だった」と目を丸くする。

小宮山泰子氏(44)(7区)も「今回の選挙で農協や郵便局の団体から推薦をもらった。さらに結びつきを強めたい」(秘書の1人)と早くも次の衆院選を視野に入れ、体制強化を図る。