『読売新聞』社説 2009年7月26日付

法科大学院 少数精鋭で質の高い教育を


信頼される司法制度を構築するには、有能な裁判官、検察官、弁護士の養成が必要だ。その養成機関としての役割を担えない一部の法科大学院の淘汰(とうた)は避けられまい。

今春、法科大学院に入った学生が対象だった2009年度入試の志願者数は、前年度より25%減少し、初めて3万人を割った。競争倍率は、74校のうち42校で2倍未満だった。定員30人のところ、入学者が5人の大学院もあった。

10年度入試が間もなく本格化するが、志願者数の低迷は続くとみられる。司法制度改革の柱として04年に誕生した法科大学院は早くも転換期にあるといえよう。

法科大学院の修了者には司法試験の受験資格が与えられる。その合格率は当初、7〜8割に達するとの見通しだった。

だが、実際の合格率は振るわず、昨年は33%だった。法科大学院に入っても法曹への道が開かれない現状が、志願者減につながっていることは間違いないだろう。

法科大学院には、司法試験の受験指導に偏らず、法理論や実務面で、法律家としての基礎を身に着けさせることが望まれている。

しかし、質の高い志願者が集まらなければ、大学院は能力的に劣る学生を受け入れざるを得ない。学生は十分な力を身に着けられないまま司法試験に臨み、不合格となる。まさに悪循環である。

中央教育審議会は、入試の倍率が2倍未満の法科大学院に対し、定員を減らすよう求めている。これまでに約50校が定員削減を決めたのは、学生の質の確保の観点から、当然のことといえる。

悪循環のそもそもの原因は、74の大学院が乱立していることにある。今後、実績を残せない大学院が敬遠される傾向は、さらに進むだろう。その結果、経営が悪化し、淘汰されるケースが出てくるのもやむを得まい。

大学院同士の統合や再編も積極的に進めるべきだ。

政府は、昨年は2000人余だった司法試験の合格者を、10年には3000人に増やす方針だ。都市部に集中する弁護士の偏在解消などのため、この増員計画は堅持していかねばならない。

その際、合格者の質の低下をどう抑えるかが課題である。各大学院が、少数精鋭のきめ細かい教育を実践することが求められる。

11年度からは、法科大学院を経なくても司法試験を受験できる予備試験が始まる。この受験者が多くなれば、法科大学院は存在意義が問われることになる。