『毎日新聞』社説 2009年7月20日付

新職業教育校 既存の学校では無理か


新タイプの学校というなら明確な必要性と役割がいる。だが既存の学校だけではどうにもならないのか。

職業教育改革を検討している中央教育審議会は中間報告で、実践的な職業教育に特化した新たな学校制度案を提起した。今後各界の意見を踏まえて答申にまとめる。

こんな案だ。大学、短大、専門学校など既存制度の枠外の高等教育機関で、入学者は高校卒業者。修業年限は2〜3年、もしくは4年以上。実験、実習など演習型授業が4〜5割を占め、関連企業へのインターンシップ(就業体験)を義務づける。設置基準は大学、短大のそれを基本にするが、教員配置では専門職の実務経験者を重視する。

どんな分野か。ソフトウエア設計・開発、デジタルコンテンツの開発、バイオテクノロジーなどといくつかを例に挙げたが、もっと多岐にわたることを想定している。

中教審は昨年文部科学相の諮問を受け、若年無業者増加や早期離職の傾向に教育はどう対処すべきかを論議してきた。折しも大不況と雇用崩壊が若年労働市場を直撃し、問題はより深刻となった。一方、企業側は「人材育成に手が回らない」と即戦力性を求める傾向が強まっている。

今回の新学校案の背景には、現在の高校、大学などの教育では将来の職業やキャリア設計の意識が十分育たず、卒業後の職選択がマッチしていないという考え方がある。

高校では高度経済成長期に中堅人材を輩出した専門学科がかつての約40%から今は約25%に減少、進学を想定した普通科が70%を超える。また戦後の大学制度は教養・学問研究と職業人養成が混然とし、実践的な職業教育の考え方に乏しい。高校進学率が約97%、大学など高等教育進学率が約77%に達した今、適性や能力、目的意識の差異や多様性はつかみきれないという側面もある。

中教審も既存校の改善工夫を求めているが、できることは多くある。例えば「全入時代」で私立大学は半数が定員割れを起こす状況で、大学自らが人材教育や職業実践力育成の方針と実績を示さなければ生き残れない。国公立も例外ではない。

また普通科傾斜の高校教育については、大学入試の教科偏重をやめることで改善は可能だ。

職業教育特化の課程は従来の大学の設置趣旨や理念にもとり、国際的に通用するか心配、というのも当たるまい。専門実務者、つまり実社会のプロたちが大学教育に吹き込む新風をむしろ期待したい。

「今もこんなにたくさん、いろんな学校があるのに」。この素朴な疑問に、いろんな解決のヒントや可能性が潜んでいるのではないか。