『沖縄タイムス』社説 2009年7月5日付

[大学院大学法成立]
山積する課題の点検を


沖縄科学技術大学院大学学園法が成立した。国による手厚い財政支援や管理運営の仕組み、設置主体などを定めた法律が全会一致で可決、成立したことで、2012年開学に向け、大きなハードルを越えたことになる。

大学院大学についてはこれまで、財政支出にかかわるさまざまな問題点が与野党双方から指摘されてきた。

自民党の無駄遣い撲滅プロジェクトチームの中には一時期、「事業コストに対する効果が不明確」だとして設置構想の見直しを求める声が強かった。

財務省も、09年度予算執行調査の中で、「戦略的な産学官連携が十分進んでいない」ことなどを指摘し、改善を求めている。

関係者は法律ができたからといって安心するのではなく、手綱をいっそう引き締めて指摘に応えてもらいたい。

沖縄科学技術大学院大学は「国際的に卓越した科学技術に関する教育研究」を行うことと、「沖縄の自立的発展」に寄与することを目的にした大学だ。大学院大学が、この二つの使命を兼ね備えていることを「何をいまさら」と軽視してはならない。

大学創設は、使命や役割を明確にするという準備段階の理念づくりと、それに沿った学長選びが最も重要だ。

「ハコモノ投資」と揶揄されたり、「巨額の税金を投入するプロジェクトにしては目的があいまい」だと言われないためにも、目指すべき方向や達成目標を明確に示さなければならない。

大学院大学は「世界最高水準」「国際性」「柔軟性」「世界的連携」「産学連携」という五つの基本理念を掲げている。

国内では前例のない発想が実を結びつつあるのは「科学技術」と「沖縄」を政治主導でドッキングさせ、予算確保と制度創設の水路を開いたからである。

ただ、基本理念を実現するのが容易でないことも確かだ。第一級の研究者を海外から呼び込むためには待遇や住環境などを魅力のあるものにしなければならず、その経費だけでもたいへんな額になる。

財政支援の根拠法が成立したとはいえ、将来、膨れる経費の負担問題が浮上してくるのは避けられそうもない。

「沖縄の自立的発展」にどのように寄与していくのか。期待されているのは知的クラスター(集合体)の形成であるが、大学院大学が具体的にどのような役割を担うのかもまだはっきりしない。

「小さく生んで大きく育てる」―県民の期待を集めて開学した県立芸大は今、県外教授陣を確保するために四苦八苦し、財政難にあえいでいる。

国の後ろ盾があるとはいえ、科学技術大学院大学には施設整備費のほかに、開学後も相当の運営費が必要である。民間からの寄付金集めなど財政自立化が進まなければ、将来は危うい。

開学に向け越えなければならないハードルが多いのは否定できないが、大学院大学は、沖縄の将来像を考える上でさまざまな可能性を秘めていると思う。