『信濃毎日新聞』社説 2009年7月4日付

法科大学院 信大の底力を見せたい


信大が、法科大学院の定員を大きく削減する方針を固めた。現在30人に抑えている募集人員を、来春入学者から18人の新定員にする考えだ。

信大は昨春、初の修了生を送り出したものの、新司法試験の合格者はゼロだった。

早く合格者を出さないと存在意義が問われる−。大幅な定員削減を打ち出した背景には、そんな危機感がある。

県内唯一の法科大学院である。県民の期待は大きい。県弁護士会などの協力も得ながら、将来、県内で活躍する人材を育てるために踏ん張ってほしい。

法科大学院は、裁判官や検察官、弁護士の養成を目的にしている。全国で74校が開校した。

2004年にスタートしたものの、順調とはいえない。今春の入学者を見ると、全体の8割の大学院が定員割れした。信大も正規の定員40人を下回る17人だった。

新司法試験の合格率は昨年、全国平均33%に落ち込んでいる。

中央教育審議会の特別委員会は4月にまとめた報告書で、新司法試験の合格実績や入学競争倍率の低い大学院に対して、教育水準の向上や入学定員の見直しなどを求めている。

こうした“指導”もあり、全国74校で現行計5700人余の定員のうち、2011年度までに2割ほど減る見込みだ。

信大など地方の小規模な大学院が置かれた状況は厳しい。しかし地方を統廃合して大都市に弁護士が偏ることになれば、司法改革の趣旨に反する。全国的なバランスを見ながら、都市部の定員をどう調整するかが大事になる。

法科大学院は少人数制の米国のロースクールがモデルとされる。討論やゼミ、模擬法廷などの実務も通じて、必要な素養を身に付けさせるのが本来の狙いだ。合格実績ばかりにとらわれ、予備校化したら意義が損なわれる。

信大は、現在18人の教員の数は減らさない考えだ。大学院を挙げたきめ細かな取り組みが実を結ぶことを期待したい。

新司法試験をめぐり課題が浮かんできた。当初、修了生の7−8割が合格すると考えられていたが現実は違った。

受験は原則、5年間で3回に限られる。多様な人材を集めたくても、高い学費を払ってどれだけ多くの社会人や他学部出身者が法律家を志すか、心配になる。

国は学生支援を強化すべきだ。新司法試験に落ちた修了生への対応も整えてもらいたい。