『産経新聞』2009年7月6日付

全入時代 中教審が報告 「大学再編」国も支援を


中長期の大学教育の在り方を議論している中央教育審議会大学分科会は、大学の統合や連携に国が支援していく必要性などを訴えた第1次報告をまとめた。大学全入時代に、「教育の質向上」と「量的規模の在り方」の2つの課題をどう解決するか。従来の「大学」「学部」の枠を超え教育研究を進める「学位プログラム」導入の必要性を挙げ、「大学再編」も視野に入れた方策が盛り込まれた。(福田哲士)

■学位プログラム

過去20年で大学は250校、学生数は77万人も増加した。平成15年度に大学の設置基準が緩和され、20年度は4年制大が752校、短大は385校を数える。

大学の生存競争は厳しい。大学進学率は55%にのぼる一方、昨春の私立4年制の定員割れは47・1%と過去最悪。地方や小規模の大学運営は厳しさを増す。

報告では「社会人ら多様なニーズを持つ人を対象とする教育機関」に変わることなど、生涯学習の中で大学が果たす役割の重要性をあげた。その上で新たな大学の在り方として「学位プログラム」の導入の必要性を訴えている。

学位プログラムは、「大学」「学部」といった従来の“垣根”を取り払い、学生が自分の研究したい内容によって、他大学や他学部での活動も含めたカリキュラムで研究を行うことができるシステム。米国はハーバード大などが導入するなど一般的に行われており、欧州でも各国間で取り入れられている。また国内でも共同学位として大学間で提携するケースも出始めている。

報告では、学位プログラムを導入した際、学部や学科はどういう形態になるのか▽教員や学生はどこに所属することになるのか▽学校教育法などの法律との整合性−などについて検討する必要性を指摘している。

さらに大学教育の質低下は、設置基準の緩和が大きく影響していると指摘。配置すべき教員の要件や施設の規模、研究環境など設置基準について具体的に検討、明確化することが必要としている。

■グローバル化

グローバル化にも言及。日本の大学について理工系に中心に研究面では国際的な評価が高い割に、留学生や研究者の受け入れや海外の大学との連携などに課題があり国際的な魅力に結びついていないと指摘。「国際的に通用する学位を作り上げていくことが、大学の国際競争力を向上させる」としている。

また欧州の大学改革の動向を見据え、「海外の大学と積極的に交流し、短期留学やダブル・ディグリー(共同学位)などを取り入れていく」など国際的な大学ネットワークの必要性を訴えた。

もう一つの課題である「量的規模の在り方」についても厳しい指摘がなされた。「教育の質と経営基盤の安定は表裏一体で、自主的な研究組織や収容定員の見直しへの支援策を整備すべき」とし、18歳人口が減少する中、社会人や留学生らへの門戸をさらに広げることや学士・修士・博士の定員見直しを求めている。

具体的な支援の方法としては、複数の大学が教育課程の共同実施や地域コンソーシアム(大学連合)に取り組むことに対し、準備経費など支援を充実させていくことなどを挙げた。

しかし、教育の質を維持していくために定員割れの大学には厳しい内容も。

私立4年制大学を中心に定員割れが激しく、すでに4大学が22年度から募集停止するなどの状況から、大きく定員割れをしている大学や学部に対しては全体的な収容定員の増加につながるような新学部の設置は認可しないなどの厳格化が必要だとしている。