『産経新聞』2009年6月21日付

大学発 ブランド食品続々 産学連携で独自色


赤いそばの実から採れた希少なハチミツ、奈良漬を使った菓子…。大学の研究室がその成果を生かし、メーカーと連携して地元の名産をアレンジした大学発のブランド食品が次々と生まれている。少子化時代で入学者の減少が見込まれる中、各大学は食品開発で特色を打ち出す一方、新たな生き残り策のひとつとして力を入れる事情もあるようだ。(中島幸恵)

≪知識と技術力の結集≫

今月中旬、東京・新宿高島屋で、大学が開発した自慢の食品を一堂に集めたイベントが開かれた。参加したのは27の国公私立大および水産大学校。会場では約300種類の食品が展示・販売され、連日にぎわいをみせた。

昨年に続き2回目となるこのイベントを仕掛けたのは、「美味サライ」ディレクターの松元浩一さん。松元さんはトレンド情報誌「DIME」の編集長時代、平成18年から2年間にわたり、大学発のブランド食品を連載。「大学は最先端の研究をしていながら、その成果がほとんど知られていない。研究の奥深さを知ることで食の抱える問題が見えてくる」と松元さん。

赤い花が咲くそばの実から、日本ミツバチが採取した希少な「高嶺ルビーはちみつ」。信州大(長野県松本市)が地元の家具メーカー「タカノ」と共同研究し、10年近くかけて製品化にこぎつけた。

ヒマラヤの高地に育つ赤いそばの花を日本の風土に合うように品種改良を重ねて定着させたもので、一般的なハチミツの100倍の抗酸化活性を持つのが特徴だ。商品化に取り組んだ同社担当者は、「大学が持つ知識と、企業の技術力を結集させた名産」と胸を張る。

≪生き残りかけた試み≫

奈良女子大(奈良市)では、生活環境学部の学生たちが中心となって、奈良漬を練り込んだカステラやアイスクリームを開発した。授業で、まちづくりの調査にかかわっていた学生たちが地元でも奈良漬があまり食べられていないことを知り、若い人にもっと奈良漬を食べてほしいと18年、「奈良漬プロジェクト」を発足。地元にある奈良漬の店をいくつも回り、レシピを考案した。「老若男女を問わず、奈良漬を気軽に食べてもらえるよう菓子という形にしました」と、同大教務補佐の森田尋子さん。

こうした大学発の逸品が次々と開発される背景には、少子化の影響がある。大学入学者の減少で淘汰(とうた)されることを懸念する大学側が、特色を打ち出すことで生き残りを図る狙いがある。さらに、新たな収入源として考える向きもあるようだ。

イベントに参加していたある地方大学の関係者は、「研究室に閉じこもって好きな研究をしていては、大学として生き残れない時代。新たな収入源として確保できるよう、アピールする必要性も出てきた」。

注目を集める大学発ブランド食品。華やかな裏には大学側の苦しい現状が見え隠れする。