『河北新報』2009年6月24日付

大学発ベンチャー苦境 東北で事業見直しや資金難


大学発ベンチャー企業が岐路に立っている。経済活性化の鍵と位置づける国の方針に沿って東北でも数は増えているものの、世界的不況を受けて多くは商品化を前に事業計画の見直しを迫られ、資金不足に陥っている。研究志向が強い教授らは経営に疎く、支援を期待される地元金融機関は冷ややかだ。日本経済の救世主とされるベンチャーの未来に不安が広がっている。
(編集委員・大和田雅人)

<東北企業130社>

経済産業省が先月、公表した2008年度の大学発ベンチャーに関する調査結果は関係者に衝撃を与えた。バイオテクノロジーを中心に企業数は累計で1809社と過去最高を更新したが、廃業も280社に上った。

東北の企業数は約130社。このうち60社を数える東北大は廃業ゼロで、IT関連に強い会津大も健闘している。順調のようだが、内実は生みの苦しみに直面している。

一つは人材確保。東北大の場合、現役教授が自己資金を調達して会社を設立、妻ら親族を代表に据え、教授は役員として研究を続けるケースが多い。仙台市内にオフィスを借り、事務職員を雇うと「1千万円の運転資金などすぐになくなる」(農学研究科教授)。

成果が製品として市場に出回るまで2、3年かかり、その間の資金調達、販路開拓は財務に詳しい民間人をスカウトする手はあるが、人件費がかさむとともに研究肌の教授とぶつかるケースもしばしば。

<実体経済疎く>

医学系の教授と仙台市で会社を起こした50代の社長は一時、障害者向け福祉器具などで年商3000万円を挙げたが、途中から開発コストが増えて撤退。たもとを分かった。「最初は良好な関係でもつまずいた時に、研究者は簡単に投げ出してしまう傾向がある。実体経済に疎い」と話す。一方、教授側には研究の中身に口を差し挟まれたくないとの思いがある。

もう一つの課題は資金。2004年、東北の官民が出資してベンチャーを支援するファンドをつくった。成長の見込める企業にファンドが数千万円規模で投資、企業は10年以内の株式市場上場を目指し、利益を出資元に返す仕組み。

大学側は積極的な投資を期待したが、東北大でも10社ほどが認められた程度。「有望な案件を持っていっても首を縦に振ってくれない。技術の高さを評価してほしい」(産学連携課)と冷たい反応に戸惑い気味。商品化の初期段階こそ資金が必要と訴える。

<問われる覚悟>

ファンドを運営する東北イノベーションキャピタル(仙台市)の阿部寛常務は「預かった資金を扱う以上、いいかげんな投資はできない。事業計画、教授の人柄、全体のチーム力を判断し、本気で荒波を乗り越える覚悟があるかがポイントとなる」と話す。

市中の金融機関は当初から慎重。七十七銀行営業支援部は「技術力はあっても商品化まで年月がかかる。返済が滞る恐れがあり、融資先としてなじまない」とつれない。

ベンチャーにリスクは付きもの。不況で苦境に立つ現状は、サポートの在り方を十分に議論しないままベンチャー支援を始めたつけともいえる。

[大学発ベンチャー]大学が持つ知的財産を産業、雇用創出に生かそうと経済産業省が推進している。東北経済産業局の調査では東北の企業の71%が「資金不足」と回答。金融機関の支援を受けているのは10%。多くは自治体の補助金でやりくりしている。