『読売新聞』社説 2009年6月22日付

奨学金 確実に回収し制度の充実を


厳しい経済情勢の中で奨学金を支えとする学生も多いことだろう。

教育の機会均等を保障し、有為な人材を育てる上でも、奨学金制度は欠かせない。健全な奨学金制度を維持し発展させるため、貸与した奨学金を確実に回収するのは当然のことである。

独立行政法人の日本学生支援機構は、返済滞納者についての情報を個人信用情報機関に登録することなどを決め、回収の強化に乗り出している。

進学率の上昇や学費値上げを背景に奨学金の利用者は年々増え、大学院生の4割、大学生の3割を占める。年間約9500億円の事業費は、返還金のほか国の一般会計予算や財政融資資金などでまかなわれている。

この奨学金のうち、返済期日を3か月以上過ぎて延滞されているリスク管理債権は2253億円に上り、10年間で倍増した。

未収率は、特殊法人だった日本育英会が日本学生支援機構に再編されて以降改善されつつあるが、それでも約20%もある。政府の行政改革推進本部は効果的な回収方法の検討を求めていた。

個人信用情報機関への情報提供は、多重債務防止のためとされているが、滞納者が失業している場合など、より困難な状況に追い込まれると懸念する声もある。

しかし、病気や失業、生活保護受給などの事情があり、本人から申請があった場合は、奨学金返還は一時猶予される。

日本学生支援機構は、こうした制度について、丁寧に説明していく必要がある。

滞納が増えた背景には、窓口となる大学が奨学生に対して返済を十分に働きかけてこなかったこともある。滞納率の高い大学については、改善が進まない場合、文部科学省が校名を公表することも必要だろう。

滞納者には早い段階から督促することや、住所不明者に対する調査を徹底することが肝要だ。

日本学生支援機構の奨学金は貸与制で、返還免除は特に優れた業績を残した大学院生など例外的なケースに限られる。

しかし、アメリカやヨーロッパでは、返還の必要のない給付型奨学金を受けている学生も多い。

教育費の在り方を考える文科省の有識者懇談会は、奨学生を増やすことなどを近くまとめる報告書に盛り込む方針だ。

返還免除制度の拡充や、給付型奨学金制度の導入についても、さらに検討していくべきだろう。