『朝日新聞』2009年6月23日付

株式会社立大学、はや苦境 LEC大が来年度の募集停止


LEC東京リーガルマインド大学(本部・東京都千代田区)が、来年度の学生募集停止を決めた。規制緩和、構造改革の波に乗り、国内初の「株式会社立大学」として注目されたが、学生は集まらず、事実上、大学を閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれた。株式会社立大学の募集停止は、これで2校目。学校経営の難しさが、あらためて浮き彫りになった。

■改革申し子、危ぶまれた前途

「(株式会社立大として)一番最初に認可を受けた大学。残念だ」。塩谷文部科学相は19日の記者会見で、LEC大の募集停止に、こう感想を述べた。

LEC大は資格試験予備校などを経営する株式会社「東京リーガルマインド」が設立した。04年春に開校し、全国14都市にキャンパスを展開した。

だが、07年1月、名ばかりで勤務実態が伴わない「専任教員」が多数いたことなどが大学設置基準に違反するとして、文科省から学校教育法に基づく初の改善勧告を受けた。LEC大によれば、これで他大学に転学する学生が相次いだ。改善勧告は大学のイメージダウンにつながり、07年度の入学生は59人。06年度の157人から激減した。入学者減は止まらず、募集を14カ所から4カ所に絞った08年度は23人。千代田区のキャンパスだけに絞った今年度は18人しかいなかった。

徐々に縮小した経過もあり、省内では募集停止決定に驚きの声はない。代わりに漏れてくるのは、「恨み言」だ。

90年代以降、大学の設置認可制度は次々と緩和されたが=年表=、特に小泉政権の03年度、大幅な緩和が行われた。「構造改革特区」(国の規制が撤廃される特別区域)で、株式会社による大学設置が可能になった。

これを受け、次々、会社立大学が開校。だが、文科省によれば、現在の6校のうち、LEC大を含め5校が赤字になっている。文科省のある幹部は「大学運営を株式会社に任せることに省内では反対論が強かったが、規制緩和の大きな波に抵抗しきれなかった」と話す。

■学生増で好調な例も

LEC大も当初は好調だった。入学者は開学した04年度と05年度は定員(160人)を上回った。法科大学院を目指す女子学生(21)は「他の大学だったらダブルスクールにお金がかかる。ここなら資格試験予備校の授業を無料で受けられるのが魅力で入学した」。

だが、3年目には定員を下回り、07年度は充足率が4割を割るなど大幅に減少。今春の累積赤字は30億円に達し、資格試験予備校など他事業部門の黒字で穴埋めしながらの経営だった。

大阪市のLCA大学院大学も昨年末、募集停止を決めた。LEC大同様に学生が集まらず、苦境が続いた。大学を運営する「株式会社LCA―I」(東京都台東区)は当時、取材に「経営が非常に厳しかった。見込みが甘かった」などと述べた。

一方で、順調に学生を増やす会社立大学もある。

東京・秋葉原にキャンパスがある「デジタルハリウッド大学」は05年に開校した。受験倍率は2〜3倍という人気を保ち、2年前、定員を190人から250人に増やした。 アニメやコンピューター・グラフィックス(CG)、ウェブなどに特化した教育内容。CGデザイナーやアニメ番組プロデューサーなどを講師にして、制作現場で即戦力になるクリエーターを養成する。

担当者は「利益を追求しながらも、利用者にどれだけよいサービスを提供できるかという点で努力してきた。会社なので、素早く意思決定し、実行できる利点もある」と話す。 通信制のビジネス・ブレークスルー大学院大学(本部・千代田区)も倍率が2倍程度が続き、定員を増やした。受け入れるのは社会人や経験者のみで、学生の平均年齢は36〜38歳。授業はインターネットで受ける。伊藤泰史副学長は「特区の活用で、校舎や敷地といった設備に費用をかけず大学をつくれた。その分、授業など教育内容に投資できた」と話す。

■厳格化へ「揺り戻し」の動きも

大学経営自体が厳しい中、塩谷文科相は、会社立6校のうち5校が赤字という現状に、「一概に株式会社立がダメということではないが、問題意識は持っている。今後十分に検討すべきだ」と語った。

実際、中央教育審議会大学分科会が今月15日に出した報告では、LEC大などを認めた規制緩和の反省もあり、設置認可の厳格化の方向性が打ち出されている。教員の要件や施設など申請書類をもとに、より厳しく審査する考えが盛り込まれ、これまでの「揺り戻し」の内容になっている。

グロービス経営大学院大学(本部・千代田区)は、株式会社立で誕生したが、08年に学校法人に変わった。理由は東京、大阪に続き、名古屋で開校するためだ。学校法人になれば、自治体単位で特区認定を受ける必要がない。鈴木健一事務局長は「より公益性の高い団体と認知されるという利点もあり、学校法人に変更したが、株式会社立だからといって不利だと思ったことはない。この制度がなかったら、そもそも学校経営に参入しなかった」と話す。

学校を設立した会社でつくる学校設置会社連盟の山口教雄事務局長は「企業が学校をつくる制度自体に問題があるという声が出るだろう。しかし、独自の取り組みで成果を上げる学校もあり、腰を据えた議論が必要だ」と話した。

■大学設置認可の規制緩和をめぐる動き

91年度 学部の種類の例示を撤廃/カリキュラムの弾力化など

95年度 設置認可の審査期間を短縮(大学の新設は20カ月→15カ月)

01年度 審査期間をさらに短縮(15カ月→8カ月)

03年度 構造改革特区で株式会社による大学設置が可能に/設置認可の審査期間を短縮(8カ月→7カ月。株式会社立大は特例で3カ月に)/大学設置、定員増の抑制方針を撤廃/専任教員の要件に関する審査内規を撤廃

04年度 LEC大が開校

06年度 名ばかりの「専任教員」が多数存在するとして、文科省が学校教育法に基づく初の改善勧告をLEC大に出す(07年1月)

09年度 LCA大学院大学が募集停止/LEC大が10年度からの学部の募集停止を決定

※文科省資料などから作成