『信濃毎日新聞』2009年6月19日付

「大学全入時代」に危機感 国公立も受験者争奪戦


入学志願者と定員が同数となる「大学全入時代」を背景に、信大を含めた国公立大学も受験生獲得に力を入れている。国立大は2004年度に独立行政法人化して効率的な経営を求められており、中京圏の国公立大もこれまで受験者が少なかった県内で説明会を始めた。私立では今春、志願者減少による経営難で学生募集停止を決める大学も相次いでおり、国公立も安穏としてはいられないようだ。

5月末、名古屋大(名古屋市)と愛知県立大(愛知県長久手町)の入試担当者が長野市内で、進学希望の県内高校生ら約50人を前に大学を紹介した。両大学とも北信地方では初の説明会。合同で開くのも初めてだ。両大学の現役学生も大学生活の様子を紹介した。

「うかうかしてはいられない」と、愛知県立大入試・広報課の担当者。名古屋市内では近年、関東、関西の有名私大や国立大が合同説明会を開くなど、各地の大学による学生確保に向けた取り組みが活発化。競争激化を受け、中京や関西などの私立大学が相次ぎ2010年度からの募集停止を決めた。

文部科学省によると、少子化を背景に2000年度入試で47万1300人だった国立大志願者数は、08年度には41万1500人に減少。そんな中、県商工労働部によると、昨年3月に県内高校を卒業し、大学などへ進学した学生の84%が県外へ流出。そのうち首都圏が51%と最も多く、愛知県は7%にすぎない。

この点が中京圏の大学には「開拓の余地がある」と映るようで、愛知県立大の担当者は説明会を通じ「学生の関心を名古屋に向けたい」。県内受験者は毎年40人ほどという名大の田上隆・入試課長も「一部地域に限らず、異なる環境から人材が集まれば学内の刺激につながる」と話す。

一方、信大は昨年、東海・北陸地域の国立大が05年から合同で開いている説明会に初めて参加。同大入試課は「(信大が)総合大学であることを知らない学生もいた。知名度アップの意味はある」と受け止め、今年も参加する予定。東大も05年から、旧帝国大学の国立大を中心に全国主要都市で合同説明会を始めており、こうした動きは、国立大が独立行政法人化され、国からの運営費交付金が減らされる中で活発化している。

中京圏の国公立大の“参入”について、長野市内のある高校で進路指導に当たる男性教諭は「今までにない。これまでと違う地域に手を広げようとしている」と指摘。北信地方は依然として関東方面の大学を受ける生徒が多いとするが、「中京圏からのPRが続けば受験生の心理に影響が出てくる可能性はある。県内も受験生の取り合いになるかもしれない」とみている。