『産経新聞』2009年6月19日付

教員免許更新制度講習 先生呼び込み 大学PRに躍起


教諭の指導力向上を目的に今年度から導入された「教員免許更新制度」に伴い、免許更新に必要な講習を開く大学間で熾烈(しれつ)な受講者の獲得競争が起きている。受講対象は経験10年以上の幼稚園と小中高校の教諭。継続的に大学に通うわけでもないので、大学側にはそれほどメリットはないが、各大学が躍起になるのは、少子化社会の進行で生き残りに必要不可欠な知名度アップの絶好の機会ととらえているからだ。

今年度の受講対象の教諭は全国で約9万人。これに対し、全国の約500大学が設定した講習定員枠は約13万4千人と対象者を大きく上回る。このうち近畿地方では対象教諭約1万3千人に対して講習定員は1万7千人と全員がまんべんなく受講しても定員割れする状況だ。

さらに、多忙な場合の措置としてインターネットを通じた受講も可能とされており、受講場所の制限もない。このため地域の大学の受講生獲得競争は過熱し、なかには大規模に新聞広告を出したり、受講料を値下げしたりと「一人でも受講する教諭の獲得を」とやっきになっている。

龍谷大(京都市伏見区)は3月、新聞とJR、京阪電車内に広告を出してPR。「受講者の負担を少なくしたい」と、受講料は必修で1万円、選択は1講習につき5千円と、平均より千〜2千円安く設定した。また、近隣府県からも利用しやすいようにと、深草(同区)▽大宮(同市下京区)▽瀬田(大津市)−の3キャンパスのどこででも受講可能にした。

ネット講習の利点をアピールするのは北海道情報大(北海道江別市)。担当者は「状況に合わせて自宅でネットを利用して講習を受けられるので、全国から応募があります」と話す。認定試験も大阪や東京、福岡など全国10カ所で実施する予定だ。

大学側にとって、講習を実施するためには講師の手配やテキストの作製、スペースの確保などで出費を強いられるため、利益はほとんどない。実際、ある私大の担当者は「講習が夏休み中なので講師を務める大学教員への追加的な人件費など経費もかさむ。それでも、やはり大学をPRできるというメリットは大きい」と話す。

それでも受講者の獲得に熱を上げるのは、普段ほとんど大学に来ることのない教諭を呼び込めば、現場に戻ったときに生徒たちに自然と大学名が伝わり、イメージアップにもなるとの読みもあるからだ。

7月27〜31日に講習を行う大阪学院大(大阪府吹田市)では「不況で受験生の地元志向が高まっているからこそ、実際に高校の教諭に学内の様子を見てもらえるのは本当に有りがたい」と受験生への波及効果を期待している。

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【教員免許更新制度】教員免許法の改正で、幼稚園と小中高校の教員に10年ごとの免許更新を義務づけた。対象者は大学などで計30時間(5日間)以上の必修・選択科目の講習を受け、認定試験で60点未満の場合は2年以内に再講習を受け、さらに再試験で不合格となれば免許が失効する。