『中日新聞』2009年6月17日付

金沢大TLOなど10大学連携 創薬へ技術移転加速


来春までに 海外5件着手目指す

金沢大学TLO(技術移転機関)を中心に十大学連携による創薬などへの技術移転事業「KUTLO−NITT(キュトロニット)」が拡大している。医薬メーカーとの契約を結んだほか、五月には米国・アトランタの展示会に共同で初出展。百件を超えた引き合いを足掛かりに「来春までに五件の開発スタートを目標」(平野武嗣金沢大TLO社長)に据える。(鈴木智重)

キュトロニットは、創薬や医療機器開発への技術移転で巨額の開発費や人材不足の課題を解消しようと、金沢、富山、金沢医科、石川県立、新潟など日本海側の七大学で昨年七月に開始した。四月には福井、同志社、山形大も加入。約二千六百人の研究成果について、海外の製薬会社を中心に営業活動する。

元製薬、ワクチン開発の担当者や国際業務にたけた人材八人を交渉の“専門家”にそろえたのが特徴。開始当初から交渉した国内メーカー二社のうち、一社と創薬に向けた開発契約を結び、もう一社も間近という。製薬会社と契約交渉では知識や独特の商慣習のため「従来の態勢では対等な交渉が難しかった」(平野社長)という。

各国の製薬会社の有力者が集まる米での展示会では、十大学からえりすぐった十四の研究成果を発表。金沢大TLO単独で出展していた昨年までと比べても関心が高かったといい、商談を進め契約成立を目指す。

金沢大TLO発足から今年三月末までの六年半で、特許出願三百二十三件のうち五十九件でライセンスなどの収入を得ており、累計は約一億円。医薬などライフサイエンスは特許数で半数を占めるものの、実際に技術移転に結び付いていなかった。平野社長は「優秀なのに目につかなかった研究を実業化させる仕組みとして、(キュトロニットに)手応えを感じている」と話している。