『北海道新聞』社説 2009年6月8日付

宇宙基本計画 軍事の拡大を懸念する


宇宙の軍事利用の拡大につながらないか。危惧(きぐ)を抱かざるを得ない。

政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)が決めた宇宙基本計画だ。

基本計画は昨年成立した宇宙基本法に基づく初の国家戦略である。従来、研究に力点を置いてきた日本の宇宙政策を利用重視に転換しようと打ち出したのが特徴だ。

具体策として5年間に官民で最大2兆5千億円を投じ、34基の人工衛星を打ち上げる目標を明示した。

アジアで災害が発生した際には衛星による観測情報を各国に提供するという。宇宙の平和利用を前進させる施策は歓迎したい。

衛星やロケットの開発事業は産業としてすそ野が広い。国内産業の振興を促すことも目指している。

懸念されるのは、安全保障分野での宇宙利用計画である。基本法は国是である「専守防衛」の条件の下で、宇宙の軍事利用に道を開いた。しかし、基本計画ではそこが強調されすぎてはいないか。

目を引くのは、ミサイル発射を探知するセンサーの研究推進が盛り込まれたことだ。

センサーはミサイル防衛(MD)システムを強化する早期警戒衛星に不可欠な装置である。研究推進は衛星導入の足がかりとなるものだ。

北朝鮮による4月のミサイル発射問題では、日本は米国の警戒衛星から情報を入手した。与党内には以前から自前の衛星を持つべきだとの声があり、その後の核実験実施でさらに勢いづいている。

しかし脅威を前面に出して、事を性急に進めるべきではない。

もともとMD計画は多くの問題点をはらんでいる。技術、情報の共有は日米の軍事一体化を進め、憲法に抵触する恐れのある集団的自衛権につながりかねない。

周辺国の警戒を招き、緊張を高める。軍拡競争は避けねばならない。

衛星導入には数兆円規模の予算が必要とされ、費用対効果の面から政府内にすら慎重論がある。このため年末に決定する防衛計画大綱の改定作業の中で、導入の是非を時間をかけて議論することにしている。

その結論が出る前に、衛星の「心臓部」である装置の研究推進を掲げるのは先走りすぎている。

米国のオバマ政権は、軍事費の削減を目指してMD計画の縮小を打ち出した。日本もむしろ立ち止まって、冷静に見直すときである。

宇宙技術はそもそも軍事、民生の両面を併せ持つ。しかし平和外交を掲げるからには、軍事面だけが突出することがあってはならない。

夢を広げる宇宙政策はあくまで平和目的が大原則だ。