『読売新聞』2009年6月6日付

職員の力(8)研修重ね「支え手」自覚


職員研修が大学と地域を融合させる。

ゴールデンウイークのはざまにもかかわらず、山形大学(山形市)の一室では、十数人の学生と教員、職員がホワイトボードの前でひざ詰め議論を交わしていた。

「庭を使えないかな」「雨が降ったらどうするの」

学生や教職員が4年前から参加する国際交流行事について、いかに盛り上げるか、どうしたら町の活性化につなげることができるか、知恵を出し合っているのだ。

年4回開かれるこの行事の開催地は、大学から車で30分以上かかる山形県河北町。交流のきっかけは、同大が2003年に始めたスタッフ・デベロップメント(SD)と呼ばれる職員研修だった。

3人程度の職員チームが市町村と協力して、地域と大学の交流を図る。机上の空論に終わらせず、成果まで求める――。同町との交流を任された同大職員の山川正敏さん(35)は、「行ったこともない町。どうなることやら」と、不安でいっぱいだったという。

町職員と話し合ううち、町が国際交流に力を入れており、関連行事に三上英司・同大准教授(47)がかかわっていることを知った。三上さんは三上さんで、多くの学生を参加させたいと願いながら、移動手段がないのに困っていた。

早速、山川さんは大学にかけあい、町と大学を結ぶバスを出してもらうなどするうち、町と大学のパイプは太くなった。「職員なのに学内を知らない自分、学内の分断ぶりにあきれた」と、山川さんは苦笑する。



この山形大で、一昨年11月、大学の枠を超えたSD「職員サミット」1回目が開かれた。提唱したのは、桜美林大学大学院で職員養成の授業を担当する高橋真義教授(62)だ。

多様な学生をきちんと社会に送り出すには、柔軟な発想と演出のできる「プロデューサー職員」が不可欠だと、高橋さんは考える。「職員は大学を支える大黒柱だという気概を持って」と熱っぽい。

そのためには、自分の大学に誇りを持ってほしい。サミットのメーンは、「大学自慢」コンテスト。昨秋は山口大で開催し、今年は芝浦工業大(東京)が舞台となる。



山形大の地域交流事業は、河北町以外でも続いている。県北部の新庄市など8市町村との連携もそうだ。少子高齢化を抱える地域に学生を送り込み、現地体験を通して学ぶ授業や課外活動を行っている。

「継続することが重要だが、難しい」と話す担当の小田隆治教授(54)は、山形大だけでなく、年間20を超える大学で研修を指導している。大きな阻害要因は「大学組織の不健全さ」。前例踏襲、職員の頑張りを認めない、“出る杭(くい)”をやたら打つ。「ダメな組織で職員だけ研修しても根付かない」とため息をつく。

職員の変革を求める大学自身が、組織としてのありようを問われる時代だ。(松本美奈、写真も)



来週からは、宇宙教育をテーマにお届けします。

スタッフ・デベロップメント 職員の資質向上・能力開発のための組織的な取り組み。研修や講演会などを行う大学が多い。これに対して、教員の資質向上のための組織的な取り組みはファカルティー・デベロップメント(FD)と呼ばれ、大学設置基準の改正で昨年4月から大学に義務づけられた。