『河北新報』社説 2009年6月1日付

最先端研究支援/長期的な視点で基盤整備を


不況のときこそ技術革新が必要だ。技術革新、科学技術の発展は、景気回復の鍵を握っている。

経済危機脱出を目標に掲げた2009年度補正予算。そこに盛り込まれた「世界最先端研究支援強化プログラム」は、2700億円の研究開発基金を設け、最先端のテーマ30程度に超大型の支援をするという政策だ。

科学技術を基礎に経済的に繁栄してきたわが国にとって、学術研究の振興は欠かせないテーマである。政府が技術立国を維持し、さらに発展させていこうという決意を、基金創設という形で示したこと自体は前向きにとらえたい。

多くの研究資金に使用できる範囲や期間に制約がある中で、新たな基金は複数年度にわたって使えるよう自由度が高められており、歓迎する意見もある。だが、緊急経済対策として唐突に出てきただけに、少なからず戸惑いの声も出ている。

そもそも、強化プログラムは日本経団連が4月に行った提言を受け、わずか半月ほどで予算化が決まったという経過がある。内容は財界の考え方そのものであり、大学関係者が危惧(きぐ)するのも、研究現場が思い描く学術支援の方向性とは違うのではないかということだ。

基金は先端研究に集中投資する。1テーマ平均90億円もの資金を、30程度の研究課題に絞って支援し、3―5年で世界的な成果を挙げてもらうことをもくろんでいる。

緊急経済対策という創設の経緯を考えれば、短期間での結果を求めることも分からないわけではない。しかし、先端技術を支えるのは基礎研究だ。そこをおろそかにしては、後々、ツケが回ってこないとも限らない。

残念ながら、わが国の高等教育への公財政支出は先進国で最低レベルにある。平均的な大学助教の基盤研究費は数十万円程度ともいわれるほど少なく、日本学術振興会の科学研究費補助金(科研費)など、競争的資金をもらえなければ、きちんとした研究ができないのが現実だ。その科研費の採択率は20.3%(08年度)しかない。

日本学術会議は現在、「日本の展望―学術からの提案」の取りまとめ作業を進めている。これまでの議論では、短期間で結果が出る研究ばかりではなく、長期にわたって科学発展の下支えとなるような研究にも目を向けるべきだとの意見が強く打ち出されている。

科学技術の振興を図ろうというなら、現場の声に対応することも必要だろう。基金を使って、研究基盤の土台を整備するという長期的な視点を忘れてはならない。強化プログラムが終わった後、大きな礎となって残るように。大切なのは遠近感のある複眼を持つことである。