『東京新聞』茨城版2009年5月24日付

国内初 大学院設置に情熱 日本唯一の障害者向け高等教育機関「筑波技術大」学長 村上 芳則さん(62)


聴覚と視覚に障害のある学生を専門に受け入れる日本唯一の高等教育機関である国立大学法人「筑波技術大」(つくば市)。前身の筑波技術短大から数えて五代目の学長にこの四月、就任した。

大阪大時代の恩師に同短大に誘われたのがきっかけ。機械工学のカリキュラムはすべて作った。一九九六年からは四年制大学の設置準備にまい進。二〇〇六年に実現すると、今度は大学院の設置が主な仕事となった。

「障害者への教育はまったくの専門外で初めてだったが、大学人として大学の設置にかかわることができ、いい経験をさせてもらったと思います」

本年度に初の四年制卒業生を送り出すのに合わせ、情熱を注いできた大学院が来春、設置される見通しとなった。障害者だけを受け入れる大学院は国内初で、世界でも三番目となる。

二年間の修士課程のみのスタートで、聴覚障害者がデザインなどを学ぶ産業技術学専攻と、視覚障害者が理学療法などを学ぶ保健科学専攻を設け、定員は計七人。概算要求を経て十二月には設置が正式決定される見込みだ。

「大学院は専門科目ばかりでなく、目や耳から得る情報の制約をどう取り除くかを学ぶ科目も用意する。障害者自身がその方法を考えることで、より効果的な情報保障のシステムがつくれるのでは」。さらに院生に対し、「ゆくゆくは本学の教員に育ってくれれば」と期待する。

海外から障害のある留学生の積極的な受け入れも計画。留学生活を始める前に、日本語手話や点字を教育するための語学センターを再来年にも設置する。このため、先行例として米ギャローデット大の調査を始める。

「手話や点字は言葉の壁が高い。手話だと日本と韓国で半分程度は異なる。海外の障害者が日本で学ぶための日本語教育も、本学が担っていかなければならない」と強調。

また、教員を希望する学生が多いことから、情報や工業、美術など特定の科目で特別支援学校の教員を養成するための教職課程を設ける準備を進める。

「聴覚障害者は一つの学年に八百人から千人いるが、本学に進学できるのは五十人。卒業生がリーダー的存在となることで、障害者のより上質な社会自立を目指していきたい」 (小沢伸介)

むらかみ・よしのり 1946年、広島県福山市出身。関西大工学部卒。大阪大基礎工学部機械工学科助手、同助教授を経て、90年4月に筑波技術短大助教授となり、筑波技術大で教授、産業技術学部長、副学長などを歴任。工学博士。専門は流体工学、音響学など。