『信濃毎日新聞』2009年5月22日付

信大新学長 地域に根ざして活路を


信州大学の次期学長に、工学部の山沢清人教授が選ばれた。2004年に国立大学法人となってから、初の学長交代になる。

地方国立大を取り巻く環境は、厳しさを増す一方だ。国立大の財源の基盤である国の「運営費交付金」は減り続けている。少子化で、受験生の確保にも頭が痛い。そのなかで教育、研究と大学経営を両立させ、地域にどう貢献していくのか−。状況が困難だからこそ、いっそう新学長のリーダーシップが重要になる。

大学の教育と研究を充実させるには、国や企業から研究資金を呼び込むことが欠かせなくなっている。第一のカギは、地域に密着し、課題を共有することである。

たとえば「蚕都」の上田市にある繊維学部は、蚕糸の伝統と先端技術を融合させ、ファイバー工学の分野で成果を挙げつつある。

県内の自治体や企業との共同研究を広げていくことも大事だ。情報発信力が求められる。学長は率先して、キャンパスを地域に開く努力を傾けてほしい。

第二のカギは、さらに特色を磨くことだ。長野県は日本有数の山岳と自然に恵まれている。既に環境分野に力を入れたカリキュラムが組まれている。山岳科学総合研究所を中心に、山岳地帯の環境と生態系の研究も進みつつある。学部間の連携も図りながら、独自の研究を深めてもらいたい。

人材を育てる拠点としての役割も重い。5年目を迎えた信大法科大学院は正念場だ。態勢を立て直し、実績に結びつけてほしい。

信大病院は、県内の医療の中核であり、最後の砦(とりで)でもある。大学病院の経営は厳しく、研修医も集まりにくくなっている。経営を改善しつつ、どう魅力を高めるか。学長の手腕が問われる。

ただ、大学側の努力だけでは、どうにもならない問題もある。

日本の高等教育への公的財政支出の割合は、経済協力開発機構(OECD)の加盟国のなかで最下位にある。国は高等教育にそもそもお金を出していない。

法人化以降、国の研究費は成果主義の色合いが強まり、成果がすぐに出にくい基礎研究や教育の分野には配分されにくくなっている。経営基盤の弱い地方の大学や、地道な研究にも目を配り、手厚く支えるのが国の役割である。

信大は今年、創立60周年を迎える。各地に分散したキャンパスは、それぞれの地域に根を張り、歴史を刻んできた。この分散をメリットととらえ、生かす取り組みを、新学長に望みたい。