『信濃毎日新聞』社説 2009年5月13日付

宇宙基本計画 軍事利用が心配になる


日本が宇宙の軍事利用に本格参入する展開にならないか、不安が募る事態である。

政府の宇宙開発戦略本部がこのほどまとめた「宇宙基本計画」の原案に、他国による弾道ミサイル発射を検知する早期警戒衛星のセンサーなど、安全保障分野での活用を目的とする研究が重要な柱として位置付けられた。

原案は、昨年5月に成立した宇宙基本法に基づくもので、日本の宇宙利用に関する施策を示す。防衛ばかりでなく、天文学や気象、宇宙産業など、幅広い利用目的が盛られている。

あれもこれもという総花的な内容で、予算の裏付けもなく、実現性が疑われる面も否めない。

ただ、心配な問題がある。

日本は1969年の国会決議で、宇宙利用は「平和目的に限る」とした。ところが中国やインドなどの新興国も含め、各国が宇宙開発にしのぎを削る時代となり、政府は方針を転換。宇宙基本法では専守防衛の範囲内で軍事利用を認めることにした。

北朝鮮によるミサイル発射で、自民党内部に、北朝鮮に対する抑止力として軍事的な対抗手段を持つべきだとする声が高まっているときでもある。政府や政治家がこのような状況を利用し、平和目的よりも軍事利用を優先させる動きにならないか、注意が要る。

同法に基づき、昨年夏に首相を本部長とする宇宙開発戦略本部を発足させ、宇宙基本計画の取りまとめ作業に入った。あまりにも性急な動きである。

重大な方針転換にもかかわらず、宇宙基本法の実質的な審議時間はわずか4時間だった。軍事利用にどう歯止めをかけるかなど、突っ込んだ論議もないまま国会決議がなし崩しにされた。

宇宙開発利用は、憲法の平和主義の理念にのっとる−。同法はこううたってはいるものの、自衛隊を海外に派遣した時のように、政府が都合よく解釈し、運用する心配がぬぐえない。実際、浜田靖一防衛相は警戒衛星の保有に前向きな姿勢を示している。

民生用の衛星と違って、安全保障にかかわる衛星は国際入札の例外とされている。日本にも軍産複合体が出来上がったり、軍事技術の開発に民間の研究者が従事させられたりする懸念もある。

宇宙基本計画は今月末にも戦略本部が正式に決定する見通しだ。拙速に事を進めるようでは国民の理解は得られない。計画がはらむ問題について、国会での議論をあらためて求める。