『読売新聞』2009年5月13日付

「日本の大学、さらに改革を」…OECDが報告書


経済協力開発機構(OECD)が国際化、労働市場の変化などに対応するため、日本は大学改革をさらに進めるべきだとする報告書をまとめた。英リバプール大学のハワード・ニュービー副学長ら欧米の専門家5人が、文部科学省の資料や2006年5月の訪日調査をもとに執筆した。

04年の国立大学の法人化に伴い、日本の高等教育はどう変わったか――。報告書は、この点に焦点を当てて現状を批判的に検討している。

報告書はまず、大学の自立性は高まったが、定員や授業料、学部・学科の再編については、文科省がまだ実質的な権限を維持していると分析。特に文科省が標準額を設定して授業料を抑える現行の仕組みを批判して、自由化を提案した。

その理由については、主要な国立大学には裕福な家庭の子弟が多く、卒業生の収入も多いと指摘。学科の違いや、教育にかかるコストを考慮して授業料を値上げすれば、大学は経営基盤を強化できるとしている。

授業料の値上げを提案する一方で、報告書は日本の高等教育分野での公的支出割合の低さにも着目。高等教育から貧困層を排除しないよう、奨学金の仕組みを改め、卒業後の所得に応じて返済額を決める方法を示している。

報告書によると、日本の高等教育費に占める学生本人や家族の負担割合は、OECD加盟国で最も高い60%(平均は17%)に達する。これとは対照的に、公的支出は加盟国平均が76%なのに、日本は韓国に次いで低い40%に過ぎない点が問題視された。

こうした提言に対し、文科省国際企画室の氷見谷直紀室長は、「国立大には将来、国のために働く人材を養成するという側面がある。単純な受益者負担の考えはなじまない」と反論。従来通り、授業料の抑制で教育の機会均等を実現するべきだと主張している。

世界の高等教育システムに詳しい熊本大学の大森不二雄教授は「海外では日本の大学の存在感が薄いのは事実。今回の報告書は、どうしたら世界の大学と肩を並べて競うような活力を得られるのか、考える手がかりになる」と話している。

報告書の日本語版は年内に明石書店から出版される予定。

(滝田恭子)