『西日本新聞』社説 2009年5月11日付

法科大学院 定員削減を改革に生かせ


4回目を迎える新司法試験が13日から始まるが、それを前に、全国の法科大学院74校の大半が、2010年度から11年度にかけて入学定員の削減を考えていることが明らかになった。

中央教育審議会の法科大学院特別委員会が先月、定員の削減などを強く求める最終報告をまとめたばかりだ。

新司法試験の受験資格は原則、法科大学院の修了生にしか与えられない。その資格の「質」が不十分だという声に対する1つの回答であろう。司法改革を支える法科大学院制度は、04年の創設から5年で大きな転機を迎えたといえる。

実社会で活躍する多様な法曹(裁判官、検察官、弁護士)を養成する。そうした法科大学院の理念を実現するためには、改善をためらってはいられない。各大学院は自主改革を急ぐべきだ。

大学院修了生の7−8割と想定されていた新司法試験の合格率は、目算が外れている。初年だった06年の48%(合格者1009人)から減り続け、08年は33%(同2065人)にまで落ち込んだ。政府は合格者を10年までに年3000人程度に引き上げることを目指しているが、達成は難しい状況となっている。

こうしたなかで、法科大学院協会の調べに対し、41校が定員を削減すると答えた。検討中も入れると、削減数は1000人程度になり、現行5765人の総定員は約2割少なくなる見通しだ。

定員が300人の東京大や200人の京都大は10年度、それぞれ2割減らすと公表した。九州・沖縄では、すでに福岡大が本年度から50人の定員を4割減らしており、定員100人の九州大など残り6校も削減を具体化するとみられる。

定員を絞り込むのは合格率向上をにらんだ員数合わせの側面もあるが、身を削る各校の姿勢は評価したい。

ただ、定員削減が改革の目的ではない。定員減で学生の質を確保するとともに、教育の質を良くする必要がある。

定員割れの大学院が半数を超える。一方で、新司法試験の合格率の低さが社会人を含めた法学未修者を遠のかせ、幅広い人材が集まらない。こうした悪循環を絶つには、どうすべきか。各大学院が真剣に向き合うべきは、この点だ。

これまで、04年春に開校した法科大学院68校のすべてが認証評価機関から評価を受け、約3分の1に当たる22校が「不適合」と認定された。専任教員が足りない、厳格な成績評価がされていない、履修科目が偏っているなど、教育環境が未整備の大学院が少なくない。早急に改善を図るべきである。

地域に根差す弁護士を養成するには、九州を含めて地方の大学院の存在が大きい。各校が連携して教育課程を共同で実施することも、もっと考えていい。

中教審の最終報告は定員に見合った教育体制の充実も求めており、定員削減を改革に生かす視点が大事だ。