『西日本新聞』社説 2009年5月8日付

奨学金滞納 後輩のためにも返さねば


不況が深刻の度を増している。将来の夢を抱いて大学などに進んだ新入生も、授業料や日々の生活費などに頭を巡らして胸を痛めているのではないか。

そうした事態の助けになる1つが奨学金だが、一方で、借りた奨学金を返さない滞納者の増加が問題となっている。厳しい時だからこそ、返済能力がありながら「借り得」を決め込んでいる不届き者がいれば、なおさら許されない。

国の奨学金制度は貸与制で、高専や大学、大学院などの学生が対象だ。無利子、有利子の2種類がある。事業は2004年、日本育英会から独立行政法人の日本学生支援機構が引き継いだが、旧育英会時代から年々拡充しており、いまでは大学生に限ると30%近くの約80万人が、この奨学金の世話になっている。

ところが、07年度の未返還額は660億円に上る。これは、同じ07年度に貸与した奨学金総額の8%に相当する。さらに、3カ月以上滞納して貸し倒れの可能性がある延滞債権が20万人分、2253億円になるという。

元奨学生が卒業後に返す金は次の奨学金の原資となる。このため、支援機構は11年度までに延滞債権の半減を目指して滞納対策の強化に乗りだした。どこの世界でも「借りたら返す」のがルールであり、後輩のためにも、返済義務を果たすよう強く求めるのは当然だろう。

対策の1つが、金融機関でつくる個人信用情報機関に滞納者情報を通報する制度の導入だ。本年度から、新入生やすでに貸与を受けている在学生から同意書を取り、これを条件に貸与を始めた。

卒業後に返済が滞らなければ通報はないが、滞納が長期化すれば通報され、銀行ローンやクレジットカードの利用が難しくなる。そうならないよう、返済に努めてもらうのが狙いである。「そこまでするのか」と反発もあるが、もともと20年以内の返済を前提に貸与される奨学金だ。病気や失業などで返済が苦しければ猶予制度もある。滞納者への一定の規制強化は仕方ないのではないか。

このほか、支払い督促申し立てなど法的措置に入る時期を、従来の滞納「1年以上」から「9カ月以上」に短縮するなど、回収策も強めるという。

いずれも昨年の有識者会議の提言を実施に移したものだ。提言には滞納率の高い大学名の公表もあったが、卒業生の滞納と大学の責任とは直接は結び付かず、慎重な検討が要るだろう。ただ、大学は奨学金の申請窓口であり、返還義務の周知徹底など協力すべきことは多い。

同時に、奨学金事業の一層の充実も訴えたい。景気悪化が子どもの進路選択に影響を及ぼしているといわれる。政府は追加経済対策の中に無利子奨学金を受ける学生の微増などを盛り込んだが、真正面から取り組むべきだ。返済不要の給付奨学金の創設を真剣に考えていい。奨学金の重要性はますます高まっている。