『読売新聞』2009年4月30日付

飛び入学
(7)指導者、選考法…壁多く


飛び入学の検討を盛り込んだ広島大の中期計画 飛び入学の導入を断念する理由は様々だ。

「学内にいろんな意見があり、一致が見られず、結局行き詰まった」。前広島大学入学センター長の杉原敏彦さん(54)(現・広島県立広島観音高校長)はそう切り出した。

国立大学が国立大学法人に衣替えした2004年度、各国立大は中期計画を発表した。広島大はその中に、「時代に対応した入学者選抜」として「飛び入学制度の検討」を明記した。

当時、先行していた千葉大学、名城大学の飛び入学生の募集に、毎年一定数の志願者が集まっていた。広島大理学部にも、前向きな意見があり、導入への後押しになった。

だが今は、制度導入を事実上断念している。千葉大などを調査して、大きな壁に突き当たったからだ。

飛び入学生のための特別講義に、専門の教員陣。杉原さんは「本学にはその余力はないと思った」と振り返る。高3の教育を、大学がある程度手当てすることも、「過去に経験がなく、具体的に想像がつかなかった」という。

教員らの考えに隔たりがあったことも壁になった。

高い学習意欲を持つ高校生の受け皿を作るべき、といった導入論者の意見に対して、教育担当の上真一(うえしんいち)副学長(58)は、「早くに大学の進路を選ぶため、ミスマッチ(不釣り合い)が起きる可能性が高い。そうなると対応しづらい」と消極的。平行線をたどった。

地元の高校の校長会から「高1から高2で基礎固めをし、高3で応用を含めた発展的な学習を行う。飛び入学は現実的でない」との意見が寄せられたことも、大きな判断材料となった。



長岡技術科学大学(新潟県長岡市)でも、飛び入学の検討を中期計画に位置づけたが、早々に導入しないことを決めた。泉敏彦・入試課長(55)は「将来も導入する可能性は低い」という。

文部科学省によると、「本格的に検討している大学はない」(大学振興課)のが現状だ。同省が05年、全大学を対象に調査を実施したところ、29大学50学部が「導入を検討している」と回答したが、翌年、この大学に絞って調べたところ、回答した23大学36学部のうち、「導入を決めた」としたのはゼロ。「導入を断念」(5学部)「検討を一時中断」(19学部)と、半分以上は消極的だった。

導入できない理由については、「指導体制を整備できない」「優れた資質を選ぶのが難しい」などの声が最も多く、「様々な分野を高校で履修しないと入学後の勉強が難しくなる」「人格形成の面で問題」など、教育効果に対する疑問も少なくなかった。



広島大では、飛び入学の導入断念を受け、既に導入していた50歳以上を対象とする入試を推進するよう方針を転換した。背景には、人格が完成した中高齢者ならば受け入れやすいとの判断がある。

一芸入試、大学院への飛び入学など、選抜制度はほかにもある。多様な学生を獲得するため、多様な方法が模索されている。(安田幸一)

国立大学法人の中期計画 国立大学法人が2004年度から6年間で、教育・研究の質の向上や業務運営、財政状況などについての活動目標を達成するために作製した「マニフェスト」。文部科学相の諮問機関「国立大学法人評価委員会」は先月末、86の国立大学法人について、07年度までの達成状況の評価結果を公表した。それによると、大学院の入試問題漏えいが発覚した東京大など、11大学が、業務面で「不十分」とされた。最低の「重大な改善事項がある」という指摘はなかった。