『沖縄タイムス』2009年5月4日付

集積拠点の整備着々/大学院大学「核」に研究も本格化


沖縄科学技術大学院大学を核とした、研究機関やベンチャー企業などの集積拠点形成に向けた県内の基盤整備が着々と整い始めている。県が2007年度、全国に先駆けて導入したゲノム(全遺伝子情報)解析機器「次世代シーケンサー」を活用した先端バイオ研究も、黒麹菌の解読を皮切りに本格化。関係機関が連携して臨床研究に取り組むネットワーク形成に向けた具体的な検討も始まった。ベンチャー企業も現在、九州最大の28社が集積。県は今後、健康・医療ビジネスの創出も視野に、作業を加速させる。(島袋晋作)

ゲノム研究
産業・医療 運用に幅

「次世代シーケンサー」を活用し、産業、医療への応用を目指す先端バイオ研究。県は2007年3月にうるま市の沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センターに3台を設置すると同時に、機器を取り扱える研究者を養成。昨年9月から本格的に運用が始まっている。

黒麹菌など微生物有用遺伝子のほか、ヒト・疾患関連遺伝子の解析も予定。本年度からはいまだになされてない日本人の遺伝子解析で、活用される。そのほか、琉球大学と沖縄工業高等専門学校が、がんなど遺伝子疾患の研究で使用する。

外部の研究機関からも積極的に活用され、運用の幅も広がりつつある。県農業研究センターは、「次世代シーケンサー」に、岩手生物工学研究センターが開発した遺伝子発現解析技術を取り入れ、ゴーヤー、パパイアの品種改良に取り組んでいる。

機能性の高い品種の作出を目指し、雌雄を苗の段階で判別して栽培する技術に生かす考え。3年で実用的な技術へつなげる計画だ。

また、アグーの遺伝子保存などの研究でも応用されているほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「バイオマスエネルギー転換要素技術開発」でも活用されている。

だが、最近になって、全国でも「次世代シーケンサー」導入の動きが出始めている。今後、他地域との競争が予想される中、「沖縄は1年以上先に進んでいる。今後も沖縄でならすぐ測れるという点をアピールする必要がある」としている。

微生物資源ライブラリ
収集3万をDB公開へ

バイオベンチャーなどの研究開発と商品化をサポートするため、琉球大学とトロピカルテクノセンター、科学技術振興センターなどが、バイオマスからのエタノール生産を促進するなどの機能性を持つ亜熱帯特性を有する微生物を収集している。

県の亜熱帯特性を有する微生物に関する研究推進事業で、将来的にデータベース(DB)化して情報を公開する考え。すでに1万7000余の微生物を集め、冷凍保存している。事業が終了する2009年度までに3万を目指している。

また、医療やバイオマス、環境、農業、食品・健康のそれぞれの分野で応用できる機能性評価も実施し、DBの利便性を向上させる考えだ。

これまでに集まった微生物としては、琉球大学熱帯生物圏研究センターの新里尚也助教が研究しているシロアリの腸内細菌などもある。木材を食べるシロアリの消化機能に着目。バイオエタノールの生産に応用できる可能性があるという。

機能性の高い有用な微生物が見つかれば、遺伝子の分析などに「次世代シーケンサー」を活用することも想定している。

医療基盤整備
琉大などが共同企業体

「次世代シーケンサー」によるゲノム研究で得られた成果を健康医療分野で活用するためには、治験を含めた臨床研究の基盤づくりも求められる。琉球大学と県医師会、南西地域産業活性化センターは今年1月、「りゅうきゅう臨床研究ネットワーク共同企業体」の協定を締結。臨床研究の促進をはじめ、国際的な連携や産業界と連携した新たなビジネスも視野に、3者が連携体制の構築に乗り出している。

かつて日本では、米国などと比べて薬の試験や検査期間が長く、「創薬後進国」とも言われてきた。その指摘を受け政府は2007年3月、「新たな治験活性化5カ年計画」で、「国際競争力強化の基礎となる医薬品・医療機器の治験・臨床研究実施体制を確保し、日本発のイノベーションの創出を目指す」とした。

ただ、治験を含む臨床研究の推進に向けたネットワーク整備の取り組みは全国的に進められているものの、日常診療に多忙な医師だけでは困難な状況がある。

このため、県内では窓口を一本化するなど、臨床研究を支援する仕組みづくりが進められている。

また、インフォームドコンセントや参加者の心身ケアなどに携わる臨床研究コーディネーター、データの品質管理を行うデータマネジャーなどの専門人材や、より高度な臨床研究を推進するための臨床研究専門医の育成も課題だ。

そのほか、治験や臨床を科学的かつ倫理的に監視、審査する倫理審査委員会のあり方なども含め、同ネットワークの検討委員会が包括的に検討を進めている。