『琉球新報』社説 2009年5月1日付

大学院大学 国民が納得のいく論議を


恩納村で建設が進められている大学院大学の2012年開学が瀬戸際に立たされている。政府が今国会に「沖縄科学技術大学院大学学園法案」を提出したものの、民主党が原案のままの成立に難色を示しているからだ。

日程的には学長の絞り込み、法に盛り込まれる学校形態の確立後の措置などに各1年程度かかることが予想され、今国会での法成立がタイムリミットとされている。

補正予算成立後の審議入りでは政府・与党、民主党とも一致している。双方が国民の納得を得られるよう論議を深めてほしい。

原案は大学院大学を「特別の学校法人」と位置付けるほか、運営費などの全額補助に10年の制限を設けた。

これに対し、民主党は「11年後の外部資金獲得の展望がなく、経営破綻(はたん)の恐れがある」と指摘、政府が継続的に支援できる「国立大学法人」への修正を求めている。

大学院大学は「学術研究の府」である。研究は連綿と続く。単なるハコモノ造りの公共工事ではない。「将来に禍根を残すな」と安定経営のための担保を求める民主党の主張には一理ある。

政府はポスト沖縄振興計画の目玉として01年6月に大学院大学構想を決定した。

世界的な権威を招いて自然科学系の世界最高水準の研究を進め、沖縄をアジア・太平洋地域の先端研究の中核拠点とする構想だ。基地の重圧にあえぐ沖縄にとって、「知の集積」「世界への発信」を目指す平和的な構想に期待する声も少なくない。

自民党は今国会での成立に向け積極的に取り組む意向をみせている。民主党の中に「駆け込み審議は拙速、今国会にこだわらない」とする向きもある中で、鳩山由紀夫幹事長は「邪魔するつもりはない。今国会に上げるべき」と発言、法案の一部修正などを視野に今国会での成立を図る考えを示している。

当初、07年3月に予定されていた開学は大きくずれ込んでいる。

ただ、拙速になってもいけない。懸念材料を抱えたまま、見切り発車のような形になっては開学の趣旨にも沿わないだろう。論議を尽くして指摘される課題をクリアし、確固たる運営のレールを敷くことが「世界最高水準」の看板にふさわしい学府づくりにつながる。