『山陽新聞』社説 2009年4月29日付

宇宙基本計画 軍事利用には歯止め必要


政府の宇宙開発戦略本部の有識者らによる専門調査会は、宇宙基本法に基づく初の国家戦略となる「宇宙基本計画」の原案をまとめた。

日本の宇宙政策を研究開発から利用重視へ転換するのを基本方針とした。今後十年程度を見越した上で、二〇一三年度まで五年間の取り組みとして、地球環境観測・気象衛星や有人宇宙活動など、九つの開発利用計画を盛り込んでいる。

計画では五年間で三十四基の衛星を打ち上げる。アジアの災害時に衛星の観測情報を提供して国際貢献するほか、小型衛星の打ち上げ機会を増やして宇宙産業の振興も狙う。日本得意の二足歩行ロボットによる月面探査を実現し、有人活動との連携も検討するなどだ。

内容はあまりに総花的で、予算の裏付けもない。計画をそのまま実行すると五年後には現在の二倍以上の予算が必要との指摘もあり、実現は難しかろう。

問題は非軍事を原則としてきた宇宙開発に、宇宙基本法の施行によって防衛目的の宇宙利用が解禁されたことだ。計画の柱の一つとして安全保障目的の衛星が挙げられ、現在三基の情報収集衛星を五年以内に四基に拡充し、早期警戒衛星のセンサー研究の推進も明記された。

しかし、衛星自体の保有の判断は今年末にまとまる新しい防衛計画大綱や次期中期防衛力整備計画に委ねるとした。まだ正式に決まっていない衛星について、基本計画で先走るのは、順序が逆ではないか。

既に運用されている情報収集衛星についても、本当に役に立っているのか、検証作業がなされていない。巨額の税金が投入される宇宙開発は納税者の理解と支持が欠かせない。防衛機密に隠れた宇宙の軍事化を進めてはなるまい。歯止めが必要だ。