『信濃毎日新聞』2009年4月27日付

女性科学者 活躍できる場をもっと


優れた業績を挙げた女性科学者に贈られる猿橋賞に、ことしは慶応大准教授の塩見美喜子さんが決まった。その発言から、喜びと同時に、女性科学者の悩みも浮き彫りになる。

「(米国で)男性と同等に扱ってもらいラッキーだった」。自分の研究をいったん中断して、留学の夫とともに渡米した。夫と同じ研究所に職を得て、RNA(リボ核酸)の研究に取り組むことができた。

日本にいたままだったら、才能開花も難しかったかもしれない。

日米の差は研究者の中で女性が占める割合に、はっきりと表れる。2008年版「男女共同参画白書」によると、米国が34・3%なのに、日本は12・4%。フランス27・8%、英国26・0%に比べても見劣りする。

大学や大学院の女子学生は増えているのに、研究職に就ける女性は少ない。しかも、講師、准教授、教授と役職が上がるにつれて女性の比率は低くなる。

大学、企業とも女性科学者の業績を正当に評価して、活躍の場を提供してほしい。技術の国際競争力を増すには、女性ならではの視点も欠かせない。

「『私にできるかしら』と思わず、自信を持って」。塩見さんは後輩に、エールを送る。猿橋賞の精神そのものでもある。賞は、女性初の日本学術会議会員で気象研究所地球化学研究部長を務めた猿橋勝子さんにちなみ、女性科学者に明るい未来を−の思いが込められている。

今回で29回を数える。賞に励まされ、多くの女性科学者たちが頑張ってきた。信州出身では、地震研究の石田瑞穂さんと神経伝達研究の持田澄子さんが受賞している。若い人たちもその後に続いてもらいたい。

「保育所は順番待ちで苦労した」。塩見さんのこの言葉も厳しい環境を物語る。大学や企業が女性を受け入れても、保育に心配があれば仕事に打ち込めない。

猿橋さんは、女性が科学研究に専念できるよう、家事や育児の負担から解放される社会福祉制度の充実を訴えた。科学者だけでなくすべての女性に共通する課題、とも述べていた。

持田さんも、日本では結婚、出産で女性の研究者が辞めていく現実を指摘し「研究を続けられるよう男性がもっと手伝ってほしい」と語っている。

女性科学者たちからのメッセージを重く受け止め、施策を講じることが日本の未来を切り開く。