『高知新聞』2009年4月11日付

高知大学長選 国「任命拒否は自治侵害」
高知地裁口頭弁論 手続き違法性否定


昨年4月に文部科学省が高知大学の学長に相良祐輔氏を任命したのは「違法」として、同大名誉教授が、国に任命取り消しを求めた行政訴訟の第一回口頭弁論が10日、高知地裁であった。国は答弁書で同大の選考手続きや文科省への申し出には「何ら形式的違法性はみられない」とし、「選考方針が不当であるといった理由で任命を拒否するようなことがあれば、それこそ大学の自治に対する不当な国家権力の介入として、大学の自治の本質を侵害することにもなりかねない」と全面的に争う姿勢を示した。

原告は、一昨年秋の同大学長選考で相良氏の対立候補だった高橋正征氏(当時=同大大学院黒潮圏海洋科学研究科長)と、学長選考会議委員の1人だった根小田渡氏(同=同大人文学部長)。

訴状によると、原告は選考会議の決定を「重大な手続き違背で違法・無効」とし、「選考手続きに形式的な瑕疵(かし)があれば、文科大臣は学長任命を拒否すべき義務がある」と指摘。その上で「被告(国)は同大の学長選考過程を認識していたにもかかわらず、任命しており、取り消しは免れない」などとしている。

これに対し国は、国立大学法人法や閣僚の国会答弁などを根拠に大学の自主性や自律性を尊重するため、学長は、学内の選考機関による選考を経た後に文科大臣が任命する仕組みとし、学長任命については選考手続きに形式的な違法性があるか、明らかに学長の資質を満たさない場合を除き、「国が(任命を)拒否することはできない」と主張。高知大の選考は学内諸規則に抵触していないとの見方から学長任命は適法であるとした。

さらに、任命に当たり考慮すべきなのは「より個性豊かな国立大学を実現するといった当該大学の利益や、その貢献を期待している一般社会の公益」とし、対立候補や学長選考会議員の「個別的利益でない」と両氏の原告適格性を否定した。

国立大学法人の学長選考をめぐっては、新潟大や滋賀医大でも訴訟になっているほか、最近では富山大で選考会議が決めた学長を任命しないよう国に要請する動きが出ている。

原告側意見陳述 「国の責任問う」

10日あった高知大学長の任命取り消し訴訟で、原告側は「大学当局は徹底した調査や責任追及をせず、それを文部科学省が是認していることは極めて遺憾」との見解を示し、「国が学長の任命責任をいかに果たすべきか真剣に問いたい」と意見陳述した。

原告の高橋正征氏は学長選考の経緯や国立大学法人化による大学の裁量拡大に言及しながら、「だからと言って国の関与が全くなくなるのではない」「国民の負託を受けた高等教育機関として透明性の確保は言うに及ばず、よもや不公正な運営があってはならない」と指摘。

その上で、「大学法人の自律性を重んじつつ、公明正大な大学運営を担保するため」として、国の学長任命責任を問う考えを重ねて強調した。

原告側は次回6月16日の第2回弁論で、国の主張に対し具体的な反論を行う。


ズーム 高知大学長選考訴訟

高知大学が07年10月、国立大学法人化後初めて行った学長選考で、選考会議は相良祐輔氏の再任を決定。ところが、事前に行われた学内意向投票で2通りの得票数が判明し、学内で同会議の決定無効と学長選考のやり直しを求める動きが強まった。同年12月、対立候補だった高橋正征氏が大学を相手取り民事訴訟を起こすとともに、「何者かが票を差し替えた」として被告発人不詳のまま、教授らが偽計業務妨害容疑などで刑事告発(嫌疑不十分で不起訴)。08年4月、文科省が相良氏を学長に任命したため同民事訴訟を取り下げ、同年6月、高橋氏らが新たに国に任命取り消しを求めて提訴していた。