『読売新聞』静岡版2009年4月10日付

産学連携 雇用生みたい/静岡


工学部と情報学部が集まる浜松市中区の静岡大浜松キャンパスに、「イノベーション共同研究センター」がある。

産学連携の拠点として1991年に発足した「地域共同研究センター」が前身。大学発ベンチャーの支援・育成施設なども造られ、2003年10月に学内の産学連携組織を統合して現在のセンターになった。

センターは共同研究開発、ベンチャー経営支援、プロジェクト企画管理の3部門を持つ。企業などが静大と共同研究を進めたい場合、センターのコーディネーターが学内に約700人いる研究者との橋渡し役になる。

静大の共同研究は、04年の法人化の前年頃から伸び、工学部や情報学部を中心に年間約250件で推移する。その半数近い約48%が県内企業との共同研究。県内中小企業は22%、研究費でも全体の34%を県内企業が占め、地域への貢献度は高い。


大学での研究成果を活用して教員や学生が起こした企業や、研究技術を活用した企業などの「静大発ベンチャー」は現在22社に上る。

その一つ、「MDルミナス」は電磁波を使った点光源型小型放電ランプの開発と応用などを手がける。夜間の道路や競技場のナイター照明などのほか、近年は自動車の前照灯に使われるHID(高輝度放電)ランプを、電磁波によって点灯させる研究を進める。

神藤(かんどう)正士代表は昨年3月で大学院電子科学研究科長を定年退職し、現在は若手研究者支援室マネジング・プロフェッサー。長くプラズマを研究し、マイクロ波の研究も30年以上続けている。電磁波で小型ランプを点灯させる技術の基本特許を4年前に大学として出願し、技術を実用化するため07年1月に「MDルミナス」を起業した。センター内の貸しオフィスと実験室を借り、スタッフらと研究にいそしむ。

「自分の研究が世に出るのは喜び。それに、大学へ少しでも利益が還元できればと考えた。センターの存在、バックアップがあったからこそ起業できた」(神藤代表)。センターのベンチャー経営支援部門はオフィスを貸し出すほか、経営や販路開拓の面でもサポートする。地元の浜松信用金庫なども03年12月に3億円で「静大ファンド」を設立。07年4月には2号ファンドも設立され、5億円のうち2億円が静大発ベンチャー向けの基金になっている。

「起業した会社はそのまま地域の会社になる。ただ、いつまでもベンチャーでは駄目。どこまで大きくなれるか、どれだけ雇用を創出できるかだ」。木村雅和センター長は「産学連携」の意味と課題をそう解説する。


静大と豊橋技術科学大(愛知県豊橋市)が拠点校となり、県内と愛知県東部の大学などの産学連携活動を支援したり、県境を越えた地域連携などを進めたりする「東海iNET」が、文部科学省の産学官連携戦略展開事業に採択され、08年度から始まった。各大学が保有する知的財産を活用し、産学官が連携して地域産業に貢献することを目指している。

光電子工学の研究開発を通じて技術の集積や新産業の創出などを狙った文科省の知的クラスター創生事業も、07年度から第2期に入った。静大は浜松医科大や豊橋技術科学大とともに中核を担う。

かつて静大工学部では、地元出身の「テレビの父」・高柳健次郎が教鞭を執った。静大の電子工学部門は外部からの評価も高いという。MDルミナスの神藤代表は「高柳に始まる歴史、伝統も無意識のうちに活用しているのかもしれない」と語る。地域で刻まれた歴史が成果となって地元に戻り、それをまた地元が支える輪ができつつある。