『信濃毎日新聞』2009年4月9日付

法科大学院 理念の旗は掲げつつ


裁判官や検察官、弁護士を養成するための法科大学院が試練を迎えている。2004年に全国でスタートしたものの、新司法試験の合格率は年々下がり、3回目の昨年は33%に落ち込んだ。当初目標に遠く及ばない。

「質」の低下を心配する声が、関係者の間に広がっている。

10年ごろに年間合格者を3000人まで増やす−。これが国の方針だ。しかし思い通りになっていない。「質を維持しつつ、大幅な増加を図る」との考えは根本から見直しを迫られている。

原因の一つとして、定員の多さが考えられる。法科大学院は全国に74校があり、総定員は約5800人だ。このうち仮に3000人が合格したとしても、合格率は当初目標の70−80%には届かない。絞り込みが必要だろう。

こうした中、中央教育審議会の特別委員会は昨秋の中間まとめで、合格実績の低い法科大学院などに対して定員見直しや統廃合を検討するように求めた。

この提案を、そのまま受け入れるわけにはいかない。地方の法科大学院がつぶされる可能性が大きくなるからだ。

司法制度改革では「弁護士過疎」の解消も大きな柱になっている。大都市への集中がさらに進む恐れがある。定員を見直すなら、全国的なつり合いを考えて都市部から手をつけるべきだ。

長野県内では、信大が05年4月に法科大学院を開設した。県弁護士会も弁護士を専任教員で派遣するなど支援している。

定員は40人だ。ただ開設時のつまずきもあり、06年度から募集人員を自主的に30人に抑えてきた。信大は先ごろ、教育の充実に向けて定員を削減する方針を決めた。10年度入試から新定員で募集するという。

3年課程で、昨春、初の修了生を送り出した。このうち19人が新司法試験に挑んだものの、合格者はゼロだった。合格者が出なかったのは全国で3校だ。

残念な結果だけれど、旧司法試験時代から多くの合格者を出してきた都市部の大規模校とは違う。地域に根差した人材養成を掲げる信大の法科大学院を、もっともり立てなくてはならない。信大も学生もさらに努力して、地域の願いを実現してもらいたい。

国も合格一辺倒では困る。バランス感覚に優れた多様な人材を育てる、というのが理念のはずだ。受験技術が優先されるようでは、改革の目的に背く。国民の期待に応えられない。