『朝日新聞』2009年3月30日付

低評価の大学、不満の声 国立大の評価結果公表


26日に公表された、文部科学省の国立大学法人評価委員会による評価結果で、教育内容などに「不十分」「水準を下回る」と評定された各大学から不満の声が出ている。結果は、大学の財政基盤となる国からの運営費交付金の額に反映されるだけに、評価委に意見申し立てをした大学は22に上った。(杉本潔、葉山梢、編集委員・山上浩二郎)

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香川大は、医学系研究科が教育方法、学業の成果、進路・就職の状況の3項目で「期待される水準を下回る」とされた。評価の根拠となる資料が足りなかったからだという。角田直人副学長は「訪問調査の時、資料を要求してくれれば対応したのに、要求がなかった」と憤る。

意見申し立ての場で不足資料を出そうとしたが、許されなかったという。「国家試験の合格率は常にベストテンに入るレベルで、自己評価では問題はないと考えている」と強調した。

三重大は業務運営で「達成状況が不十分」とされた。「外国人教員を増やす」という目標が未達成だったことと、07年度の大学院博士課程が定員の90%に満たなかったことが理由だ。

豊田長康学長によると、33の目標のうち達成できなかったのは、外国人教員数のみという。「達成率は97%なのに不十分とは納得いかない」と意見申し立てをしたが却下された。大学院の定員は08年度は93%となり、外国人教員も09年度に6人採用するという。「全体の予算削減のため傾斜配分するのは格差拡大にならないか心配だ。しゃくし定規のやり方は逆効果ではないか」と指摘する。

福岡教育大も申し立てをしたが却下された。

業務運営と自己点検・評価等の項目で「不十分」だった。業務運営の面では、外国人と女性の教職員数を増やす目標を立てた。女性教職員は順調に増えて全体の3割近くになったが、外国人は増えなかった。女性の増加分が十分に評価結果に反映されなかったことには納得がいかない。担当者は「高い目標を設定すると、どうしても達成が難しくなる」と話した。

財務内容が「不十分」とされたのは鳴門教育大(徳島県)だ。判断項目として外部研究資金などを増やすことが盛り込まれている。同大は、科学研究費補助金を40件に増やすことを目指した。しかし、実際は04年度こそ44件だったが07年度は33件にとどまった。これが響いたという。担当者は「目標設定の時、数字を書くことに議論はあった。結果的にクリアしなかったので仕方ない」と話した。

東京大と京都大はどうだったか。

東大は社会連携・国際交流等について「達成状況が非常に優れている」とされた半面、「その他の業務運営」については「不十分」だった。付属農場で使用禁止の農薬を使っていた問題や大学院入試での問題漏洩(ろうえい)が影響した。高橋宏志副学長は「再発防止策の実行を進めるとともに信頼の回復に努めたい」という。一方で「中期目標は社会に対する約束であり、その達成状況を反映して資源(運営費交付金)の配分がなされるのは当然のこと」としている。

京大は教育研究について、学業の成果で「期待される水準を下回る」とされた学部・研究科が七つ、進路・就職の状況でも四つ。江崎信芳副学長は「根拠を示したつもりだが、こういう結果になった以上、真摯(しんし)に受け止めて改善に努めたい。進路・就職では主に大学院で学位認定に時間がかかることが問題とされたので、学位への考え方を検討していきたい」と話した。

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評価方法 法人化で各大学などに義務づけられた中期目標のうち、04〜07年度分について行われた。業務運営、財務内容など運営分野は、国立大学法人評価委員会が達成状況を、▽非常に優れている▽良好である▽おおむね良好である▽不十分である▽重大な改善事項がある、の5段階で評価。

教育・研究分野は、大学評価・学位授与機構が、まず学部・研究科ごとに、期待される水準を、▽大きく上回る▽上回る▽水準にある▽下回る、の4段階で評価後、評価委が大学全体の達成状況を5段階で評定した。

大学関係者の間では、「評価疲れ」という言葉が飛び交うほど、教職員が評価のための資料作成に追われる状態だという。