『中日新聞』2009年3月23日付

患者サポートへ職域超えた連携 岐大病院、難病拠点指定から4年


岐阜大病院(岐阜市柳戸)が難病医療拠点病院に指定され、4月で丸4年。医療、福祉の職種を超え、患者を支える関係者のネットワークができつつある。

「いろんな立場の人が支えてくれるのでありがたい」

2007年夏から神経系の難病、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)を患う義母・静江(62)さん=仮名=を世話する本巣市の主婦深沢由美子(35)さん=仮名=は、感慨深げに話す。

静江さんは人工呼吸器が必要で、首から上しか動かせず寝たきりの状態。静江さんは1年前に入院していた岐阜大病院を退院し、自宅療養に切り替えた。退院前に、難病医療専門員をはじめ、大学病院の主治医や訪問看護師、地元のかかりつけ医、ケアマネジャーら十数人が集まって担当者会議を開いた。

往診や看護師の訪問の時間など、日常のサポート態勢を話し合った。病院側からの情報提供だけでなく、患者の不安を取り除く方法などをやりとりした。

県内の難病患者は約8200人。高齢化とともに増えつつあり、患者支援は重要度を増している。

拠点病院の指定には、特定非営利活動法人県難病団体連絡協議会(難病連)の松田之利会長の存在が大きかった。自身も母親を約30年前にパーキンソン病で亡くした。病気や患者会の情報もなく「何を生きがいに生きればいいのか」と苦しむ母親にこたえられずに1人悩んだ。「専門医が近くにいなくても、安心して地元で療養できる環境を整えなければ」。拠点病院の指定に向けて県や岐阜大病院に働きかけた。

2月20日に大学病院で開かれた「難病ケアコーディネーター研修会」。県内の保健師、訪問看護師ら52人が集まり、神経難病患者に対する面接方法を学んだ。

以前は、職種を超えて医療、福祉の関係者が集まる会議はなかなか設けられなかったが、大学病院では現在、入院から在宅療養に移るすべての患者に対して会議を開く。松田さんは「ようやく病院と地域の連携が進んできたようだ」と喜ぶ。

ネットワークが実現したメリットは、患者だけにとどまらない。神経内科を担当する松野泰子看護師長は、患者や家族とのかかわりが増える中で、考え方が変わったという。「病院内ではどうしても一患者としてとらえてしまうが、患者さんも家族の一員として役割を持っている。その役割を生かせる在宅医療を考えられるようになった」

県難病医療連絡協議会長で、岐阜大病院の森脇久隆院長は「地域によって、医療、福祉の職種を超えて連携できる環境に差がある」と課題を挙げる。患者の家族への負担はやはり重いまま。大学病院の難病医療専門員の堀田みゆきさんは「もっと社会資源で患者や家族を助けることができるはず」と提言する。患者と家族の苦しみをいかに分散し、和らげるか。関係者の連携と専門スタッフの育成がさらに望まれる。

(徳田恵美)

【難病】原因不明で治療方法が確立しておらず、病状が慢性に経過し、後遺症を残す可能性がある特定疾患のこと。現在、調査研究対象となるのは123疾患で、そのうち医療費の助成を受けられるのは、リウマチやベーチェット病など45疾患。岐阜大病院が2005年度に難病医療拠点病院に指定され、06年度に「難病医療連絡協議会」の事務局が置かれた。研修会などを通じて専門スタッフを育成するほか、県内の約30の病院などと連携、情報を収集し、患者の療養環境を整える。問い合わせは事務局=電058(230)7100=へ。