『産経新聞』2009年3月11日付

奨学金滞納者 ブラックリストに賛否 精神的ダメージ/仕方ない


奨学金の返還が3カ月間滞ると個人信用情報機関に登録します−。独立行政法人「日本学生支援機構」が打ち出した対策に、賛否が分かれている。延滞の抑止などが目的だが、「奨学金制度を続けるためには必要」と理解を示す学生がいる一方で、「サラ金の滞納者と同じようにブラックリストに載せるのはおかしい」と疑問視する声もある。(安田幸弘)

◆同意しなければ打ち切り

同機構が対策を発表したのは昨年12月のことだった。

個人信用情報機関への登録は、本人の事前の同意が必要なため、機構は現在、奨学金を利用する全学生に「個人信用情報の取扱いに関する同意書」に署名するよう求めている。4月30日までに同意しなければ、「奨学金の貸与を打ち切る」方針で、新たに奨学金を希望する新入生も同意が前提になる。

3カ月以上滞納した人の個人情報は、早ければ来年4月から、金融機関などが加盟する個人信用情報機関に提供する予定だ。現在の滞納者に対しても、今後、同意書を配布していく。

◆デモやシンポも

個人信用情報機関に登録されると、どんな影響があるのか。債務整理や借金問題に詳しい大森顕弁護士は「いわゆるブラックリストに登録されると、クレジットカードやローンの利用が難しくなり、日常生活に支障をきたす恐れがある。また、落後者の烙印(らくいん)を押されたように感じ、精神的にダメージを受ける懸念もある」と話す。

滞納しなければ登録される心配はないが、疑問を持つ人もいる。東京都内の大学院に通う男性(26)は、機構の奨学金を利用しているが、「同意しなければ貸与を打ち切るというのは、ほとんど脅迫。最初の契約になかったことをいきなり言われても納得できない」といい、まだ同意書を出していない。

京都市内では今年1月に学生ら約50人がブラックリスト化に反対するデモを行った。4月12日には、東京・京橋で「奨学金の貸金業化を考えるシンポジウム」(仮称)が開かれる予定だ。

◆次世代の奨学金に

疑問の声の一方で、理解を示す学生もいる。機構の奨学金を利用する東京都内の男性(23)は「返すことを前提に借りているので、特別な事情がないのに滞納するのはフェアじゃない。(機構の対策は)仕方がないと思う」。別の大学4年の男性(23)も「滞納者が増えると今後の奨学金へ回せる額が減るので責任をもって返すのは当然」と話す。

機構の奨学金は、利用者の増加に合わせて滞納額も増えている。3カ月以上の延滞債権額(返済期日が来ていない分を含む)は、平成19年度末で2253億円に上り、回収努力は継続的な課題だ。財務省から回収の強化を求められていることも今回の対策につながった。

機構は「返還金が次の世代の奨学金につながるということを理解してほしい。経済的な事情や病気で返還できない人は、返還期限を遅らせることができる猶予制度もあるので届け出てほしい」としている。

■自炊で節約志向の大学生

全国農業協同組合中央会(JA全中)が全国の一人暮らしの大学生(男女計600人)を対象に、「一人暮らしの大学生の食生活実態調査」をインターネットで実施(2月6〜13日)したところ、9割の学生が3食のうち1食以上を自炊し、5人に1人は3食とも自炊していることが分かった。

節約志向の高まりとみられ、親から送ってもらってうれしい物の第1位は「お米」(63・7%)、2位は「レトルト、インスタント食品」と保存できる食品を求めており、約8割の学生が「価格」に気をつけて食生活を送っているという。

JA全中は「外食の値上がりや、不況による親の仕送り負担の軽減を意識して自炊し、節約しているようです」と分析している。



【用語解説】日本学生支援機構

旧日本育英会など5団体が平成16年に合併してできた独立行政法人。奨学金の貸与事業や留学生の支援事業などを行う。奨学金は、無利子の第1種と有利子の第2種。両方合わせて、貸与を受けた人は10年度は50万人で、右肩上がりで増え続け20年度は122万人に。返還者数(19年度末)は約222万人、滞納者(同)は約29万7000人。