『毎日新聞』富山版2009年3月2日付

’09記者リポート:富山 学長選考巡り揺れる富山大


◇2度の教職員意向調査で最下位、学外委員過半数の選考会議1位
◇5学部教授会が“反旗” 西頭学長「続投し、改革」

富山大が学長選考を巡って揺れている。昨年12月に西頭徳三学長(70)が再任されたことに教職員が反発。8学部中、人文、人間発達科学、経済、理、医の5学部の教授会が、就任辞退や選考方法の見直しを求め、声明文などを出す事態となった。先月の全学集会では150人を超える教職員が再任辞退を求めたが、西頭学長は「改革の続行」を掲げ、あくまで続投の構えを崩さない。任期は4月1日から。この騒動の結末は……。【青山郁子】

◇学長選の経過

今回の学長選は昨年10月に公示され、西頭学長▽平井美朗・理学部長(60)▽倉知正佳・大学院医学薬学研究部特任教授(66)の3人が推薦された。11月に2度行われた教職員対象の意向調査は、いずれも平井氏が首位、倉知氏が2位。西頭学長の得票は2割程度で、最下位だった。

半数を学外委員が占める学長選考会議は12月に開かれ、24人中22人が出席。審議で結論が出ず、議長を除く21人による無記名投票の結果、西頭学長が11票を獲得して再任を決めた。同大理学部教授会によると、国立大の学長選考で、意向調査で3位以下だった候補が選考会議で逆転した前例はなく、教職員の意向は無視された形だ。

学外委員は、議長を務めた金岡祐一・富山国際学園理事長▽石井隆一知事(当日欠席)▽中尾哲雄・インテックホールディングス(IH)会長ら、行政、企業、教育関係者らが務める。西頭学長は、主に学外委員からの支持を得たとみられる。

◇教職員の反発

西頭学長への不信感の背景の一つには、学部の再編問題がある。2年前、補助金にあたる運営交付金を国が5%削減したことがきっかけだった。

現・富山大は05年、富山大(富山市五福)、富山医薬大(同市杉谷)、高岡短大(高岡市二上町)が再編統合した。キャンパスはこの3カ所に分かれ、学生は、一般教養科目を所属学部があるキャンパスで受講している。

西頭学長は、学生の共通教育の共通化など人員削減策を提案。人文学部の教員の約半数はこれらの科目を教えることから「学部の解体につながる」と反対。教員を新設の「研究部」所属とする組織改編案も学部の意義や責任の所在をあいまいにすると反発を招き、西頭学長への不満が高まっていた。

◇広がる亀裂

一方、西頭学長を支持した学外委員。傘下のインテック(富山市)が同大の授業評価システムなど複数のシステムを受注するなど、大学と利害関係にあるIH関係者が委員などを複数務めることについて、西頭学長の再任に反対する「学長選考問題を考える会」(世話人=小倉利丸教授ら4人)は「特定企業との癒着」と指摘する。

これに対し、金岡氏は「選考は各委員の見識に任せた。会議の進め方に瑕疵(かし)はない」と強調。イ社から出向中の山森利平・同大監事は、声明文を出した4学部に対し、教授会の出席者数や決議方法について監査請求を行い、「なぜ前例がないといけないのか」と、教授会などを批判した。

西頭学長は今年に入り、各学部の懇談会に相次いで出席。教職員に、大学改革への協力を呼び掛けている。毎日新聞の取材に対し、西頭学長は「続投の意思に変わりはない。共通教育の一本化は他学部と交流できるメリットがある」と語った。

また、学外委員に一企業グループの関係者が複数就任する現状については、「再編統合前からつながりがあるインテックグループは富山大をよく理解しており、問題ない」との見方を示した。

だが、現状では、教職員と、学長・学外関係者との間の亀裂は広がる一方だ。文部科学相の学長任命のタイムリミットが迫る中、富山大の研究、教育、理性の府としての見識こそが問われている。